経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第一回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第一回-

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画像素材: Rawpixel / PIXTA

 

*** 物流への視野の狭いアプローチに警鐘 ***

 

第二次世界大戦当時、東条 英機(とうじょう ひでき)は行政権の責任者である首相、陸軍軍政の長である陸軍大臣、軍令の長である参謀総長の三職を兼任していました。
しかし、そんな彼でも軍を動かす力はありませんでした。
明治憲法のもとでは、軍隊を指揮するのは天皇と定められており、内閣にはその権限がありませんでした。
陸軍や海軍は指揮権を持つ天皇を補佐する機関でしかありませんでした。
しかし、天皇の指揮権というのはあくまで観念的なものでしかなく、武器を整備したり、弾薬を購入したり、予算を立てるのは主に陸相と海相主導で行われたのです。

戦争が短期間で片づき、軍人の作戦の巧拙によって勝敗が分かれていた時代はこのような体制でも十分に機能していました。
しかし、戦争が長期化し、国の産業力、ロジスティクス力が戦争の優越を決める時代になると、日本のやり方は通用しませんでした。

予算や外交、軍需品の生産や調達等に本来責任を持つ内閣をないがしろにして、陸軍、海軍が作戦事項を次々に決定していったのです。
これらの部門は戦術・戦略について軍事的側面のみにフォーカスして研究に励んでいる専門機関であるため視野が狭いです。
近代の戦争の勝敗を決めるのは産業力とロジスティクス力であり、この基本の上に軍事作戦があります。
しかし、日本の場合は逆でした。
権限の中枢が曖昧になり、国家を高く広い視点から強力にリードする機関はなく、権限もはっきりせず、視野の狭い陸海軍の言動が自部門の見栄や都合を優先して国を動かすようになってしまっていたのです。

これに対し、敵国である英国と米国の大統領の権限は絶対的でした。
大統領は行政の長であり、軍の最高司令官でもあったのです。
視野の狭い専門機関に組織全体を動かす戦略構築を任せるのは、誤った権限移譲であり、組織を間違った方向に導く可能性が高いです。

民間の企業でもこれと似たようなことが度々起きています。

 

検品レス

 

*** 経営者の高い視点から物流へアプローチ ***

 

物流は物流部門だけで独立して仕事をしているわけではありません。
生産や営業といった関連部門との密な連携によって日々の業務を行っています。
また自社だけで完結することはなく、サプライチェーンに関わる多くの関連企業とも密接に関係しているのも物流部門の特徴です。

このようなポジションにある物流部門に対して、誤ったアプローチでIT活用が進められるケースが増えています。
物流部門や情報システム部門に一任され、物流や情報の専門部門だけで議論が交わされ、結果として倉庫内の作業改善や物流部門内の効率化だけに偏ってしまい、企業競争力を高める物流システムの導入には至っていないのが実情です。

しかし、これは決して物流部門の責任でも、情報システム部門の責任でもありません。
経営者の責任です。高い視点で全体を俯瞰して自社の物流の再構築を指示出来るのは経営者しかいません。
物流が重要だと世間で言われるようになった昨今ですが、今だに腰の重い経営者が多いのです。

近年、IT(情報技術)、ICT(情報通信技術)は急激に進歩を続けており、私たちの生活にとって欠かせないものとなっています。
いまや物流・ロジスティクスと言われる領域もIoT/AI時代に突入しました。
戦略的な物流・ロジスティクスの構築は経営者にとっても重要な経営判断の一つです。

経営者自身も先端技術のトレンドや自社でも使える技術、物流システムの技術や知識を学んでそれを経営に生かしていかなければなりません。
本稿では、物流システムがどのような仕組みで、どのような技術があって、どのように戦略的にアプローチをしていけばよいのか、経営者目線で解説していければと考えています。
ITを活用したソリューションは経営に不可欠となっています。経営者の知識も常に最新の状態にアップデートしていく必要があるのです。

倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)とはどういった仕組みなのか。
また最新の物流システムの動向はどうなのか。それらは企業のロジスティクスにどのような変化を起こしえるのか。
また、それを経営に生かすためにITやICTがどのような役割をはたすのかを解説します。

Amazonや楽天といった企業はネットの中だけでビジネスを拡大してきたわけではありません。
物流をITで武装し、競争の源泉にしたことでイノベーションを起こした企業と言えるでしょう。
何故ならAmazonや楽天より、以前に似たようなネットビジネスはいくつか存在していたからです。
彼らは決してその分野のパイオニアであったわけではありません。
ネットの世界で勝負しながら、アナログ(物流)の部分の重要性に気付き、そこに積極的に投資したからこそ、他の追随を許さない急成長を遂げることが出来たのです。

 

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*** 物流の6つの機能について ***

 

今回まず、物流の基本的な機能について解説します。
物流には大きく分けて6つの機能があります。
輸送・保管・荷役・包装・流通加工・情報の6つです。これを物流の6大機能と呼びます。
以前は「情報」が無く、5大機能と言われていましたが、近年「情報」が加わり、筆者が図にして説明する際は下図のように中心に置いてその重要性が伝わりやすいようにしています。

 

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それぞれの機能ついて順に説明します。

●輸送
材料・製品・商品等の荷物を移動させることです。
移動手段はトラック・船・鉄道などで運びます。輸送改善は物流のコスト削減で最も効果が大きいと言われています。
“物流改善の玉手箱”、”物流改善最後の砦”と言われることもあるほどです。
また輸送方法の選択は物流戦略でも最重要戦略と言われるほどです。モーダルシフトの重要性が近年高まっているのもそのような理由からです。

●保管
倉庫や物流センターに材料・製品・商品等を在庫として保管します。
保管は物流機能の中で、需要と供給の時間ギャップを埋める重要な役割を担います。
保管機能があることで、私たちは欲しい商品を欲しいタイミングで手にいれることが出来るのです。
保管は物流機能の中でも中核的な機能になります。この保管をITで管理する倉庫管理システム(WMS)や在庫管理システム(IMS)が物流システムの中で中核的なシステムと言われるのもそのためです。

●荷役
倉庫や物流センター内での入荷検品・ピッキング・仕分け・出荷検品等の倉庫内作業のことです。
物流の作業改善に手を付ける際に、比較的簡単に改善できるのがこの荷役作業です。よってこの荷役作業から改善を進める企業が多いようです。

●包装
生産された商品を包装資材(ダンボールや専用容器等)に詰める作業です。パッケージングとも言います。
物流機能の中でもっとも地味な包装ですが、この分野の自動化はまだ手付かずの状態で、今後はAIやロボットを活用した完全自動化が期待される分野でもあります。

●流通加工
物流領域で商品を出荷する前に加工を施すことです。
流通加工は自動化が難しく属人性の高い作業になります。
従来は小売側で行っていた作業を物流側で出荷前に行うことで作業の効率化を図る目的で実施されるようになりました。
検針・タグ付け・ハンガー掛け・値札付け作業などを物流センター内で行います。
流通加工に含まれるかどうかは微妙ですが、EC物流が盛んな近年では、ささげ業務というのもあり、「撮影」「採寸」「原稿作成」の商品情報制作業務を物流センターで行うケースも増えてきています。

●情報
輸配送管理システム(TMS)や倉庫管理システム(WMS)等を利用した物流情報システムのことです。
上記に紹介した5つの機能全ての管理、効率化の役割を担います。
最近では企業の競争力に貢献するための物流システムの導入が流行しており、従来の簡単で安いパッケージの導入から高度な物流システム導入を検討する企業が増えています。
今後はマテハン連携やRFID等の技術を活用した物流システムの導入が増えていくでしょう。
WMSやTMSを導入するエンジニアは今後益々必要とされますが、それを正しく導けるエンジニアが不足しているのも実情です。

次回は物流システムの種類と役割、または関連について解説する予定です。ご期待下さい。

<<参考文献>>
谷光太郎 著『戦史に学ぶ物流戦略』 同文書院インターナショナル
『物流ITソリューションハンドブック』 流通研究社
石川和幸 著『エンジニアが学ぶ物流システムの知識と技術』翔泳社
前田賢二 著『日本型ロジスティクス4.0』 日刊工業

 

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