経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第四回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第四回-

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画像素材: chesky / PIXTA

 

*** 進む、サプライチェーンのデジタル化 ***

 

経営者はサプライチェーンのデジタル化にどう向き合うべきなのでしょうか。

筆者は、経営者の皆さんにSCMを根底から変える可能性を秘めたデジタル技術にもっと目を向けて欲しいと考えています。
何故なら、サプライチェーンはあらゆるビジネスの血液であり、品質・デリバリー・製品コスト・顧客サービス・顧客満足など、多岐に渡って影響を与えます。
しかし、主に日本の製造業において長い間改革テーマとして挙げられ続けたSCMは、一昔前に作られたシステムで動いています。

※サプライチェーン・・・原料から製品が生産されて、最終消費者に届くまでのプロセス全体のこと。
            このサプライチェーンをITを活用して効率的にマネジメントすることをSCM(サプライチェーンマネジメント)という。

 

20年ほど前にその重要性が叫ばれ始めてから、多くの企業がSCMについて学び、改革を実行してきました。
しかし、一定のレベルに達するとそこから先の進化が見られなくなってしまいました。
企業のリーダーたちがSCMの破壊的な可能性に早々に見切りをつけてしまい、自らの組織のビジョンとSCMが関連することが少なくなってしまいました。

しかし、ニーズの多様化、ライフサイクルの短縮は目に見えて明らかであり、調達・生産・物流・販売といったサプライチェーンへの圧力は日増しに強まっているのが実情です。

つまり、SCMの重要性は今後益々高くなり、企業のリーダーはこの領域においてデジタル化を進め、今まで以上に高度なものへと成長させていかなくてはならないのです。

 

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*** SCMに明確なビジョンを持たせる ***

 

多くの経営者が、サプライチェーンがいま大きなデジタル変革の時を迎えていることに気付いています。
しかし、それが将来どのような姿になるのか、自社がその変化の波に乗り遅れないようにするには、どのようなタイミングでどのような技術を活用するべきなのかに頭を悩ませているのではないでしょうか。

米テネシー大学のShay D.Scott教授らは、企業のリーダーがサプライチェーンの将来に関して明確なビジョンを持てるようにするため、「SAVVYフレームワークを論文で発表しました。

「SAVVY」とは、Sources of Data(データの情報源)、Analytical Capabilities(データ分析ケイパビリティ)、Variety of Applications Across the Supply Chain(アプリケーションの多様性)、Value Provided to the Organization(組織にとっての価値)、Your Changing Role(変化する役割)の5つの要素の頭文字をとった略称です。
それでは5つの要素を順に見てみましょう。

 

■Sources of Data(データの情報源)

企業はこれまで、ERP、販売管理システム、在庫管理システム等の体系化されたデータすなわち構造化データに基づいて意思決定を行ってきました。
しかし、いち早く潜在的なニーズを獲得し市場でイニシアティブを握るためには天気予報や、政治情勢、ニュース等の体系化されていない非構造化データを活用する必要があります。
企業活動で利用可能なデータのおよそ8割は非構造化データだと言われています。
非構造化データを活用し、正当に評価することは決して容易ではありませんが、AI(人工知能)やビックデータを用いたデータ主導型の意思決定にシフトしていく必要があるのです。

 

■Analytical Capabilities(データ分析ケイパビリティ)

企業はサプライチェーンで何が起きているかを知るために過去の実績データをベースとした記述的な分析を主としてきました。
しかし、新たなデジタル時代のサプライチェーンでは記述的分析だけでは不十分です。
今後の見通しを図るための予測的分析、問題解決と機会獲得のための処方的分析を活用していかなければなりません。
企業は必要に応じてそれらのツールを導入し、計画・在庫管理・物流・マーケティングに新たなアプローチで挑む必要があるのです。

 

■Variety of Applications Across the Supply Chain(アプリケーションの多様性)

世の中には様々な技術が氾濫し、新しい技術も次々に生まれ多様性も増しています。
また既存の技術をベースとした新しい応用も次々に登場しています。
例えば、もともとビットコインなどの仮想通貨で利用され始めたブロックチェーン技術は今後SCM領域での活用が期待されています。
経済産業省の試算によれば、ブロックチェーンが国内経済に与えるインパクトは67兆円で、その内半数の32兆円はSCM領域だと言われています。

経営者は新技術に怠りなく目配りをし、多岐にわたるサプライチェーンの各局面で効果的な技術を新旧問わずにセレクトし、活用することが求められています。

 

■Value Provided to the Organization(組織にとっての価値)

組織にとって、ITの重要性は増すばかりですが、サプライチェーンの中でITは効率性を求めるツールとして利用されてきました。
しかし、デジタル化されたサプライチェーンにおいては、信用、カスタマイゼーション、信頼性、収益向上に貢献するIT活用が主流となっていきます。
みなさんの会社ではITはどのような価値を生み出しているでしょうか?次の経営会議で是非この問いを投げかけてみてください。

ITの価値はそれぞれの組織によってその評価は異なるでしょう。
ITの活用は効率性、生産性、可視性等の数値に現れる効果だけではなく、信用、信頼性、アクセシビリティ等の質を高めることでその真価を発揮するのです。

 

■Your Changing Role(変化する役割)

デジタル化が進むサプライチェーンの中では、それぞれの役割さえも大きく変わろうとしています。
企業リーダーやSCMマネージャーについては、新旧の技術について学び、それがどんな価値を生み出すのかということについて考える時間が必要です。
あらゆる技術の細部やその仕組みまで理解する必要は必ずしもありませんが、自社で活用し得るかもしれないポテンシャルを持つ技術には常に目を光らせるようにしましょう。
目まぐるしく変化する今後のサプライチェーンの世界では、こうした情報を逃さずキャッチしていくことが必須なのです。

 

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*** まとめ ***

 

筆者が多くの企業を訪問する中で感じていることの一つに、経営者がビジョンやアイデアを描いて、ITを活用する必要性について関心が低いということです。
そもそもITにあまり興味がないという経営者も少なくありませんし、ITに関心があっても、その活用は現場任せといった経営者が非常に多いのです。
競争戦略においてITの重要性は高まるばかりです。

経営者はサプライチェーンを上手く運用するために、ブログやツイッター等あらゆる手段を通じて新しいテクノロジーの情報を入手し、それについて考えていくことが大切です。

たしかに世の中には沢山の技術やツールが氾濫しており、次々に新しい技術が登場するので、ついていけないという声も良く聞きます。
企業のリーダーがサプライチェーンのデジタル化について明確なビジョンを構築する際、これら5つの要素について経営会議で議論してみてはいかがでしょうか。
5つの要素別に現状を整理し、目指す将来像を描き、必要な技術を調査し、改革に向けたロードマップ作りをすることは、あたなの会社をサプライチェーンの中で重要なポジションに据えるきっかけになることは間違いないでしょう。

 

<参考文献>
『月間ロジスティクス・ビジネス 2019年1月号』 ライノス・パブリケーションズ
前田 賢二著『日本型ロジスティクス4.0』 日刊工業
石川和幸 著『エンジニアが学ぶ物流システムの知識と技術』翔泳社

 

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