経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第七回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第七回-

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画像素材:xiangtao / PIXTA

 

*** ウエルシア薬局によるRFID実証実験の報告 ***

 

先月の5月16日と17日の二日間、東京流通センターの展示場で開催された「アジア・シームレス物流フォーラム2019」に参加してきました。
そこで報告された、ウエルシア薬局株式会社による「RFID活用による店舗オペレーション革命」の内容について、ご紹介します。

ウエルシア薬局はイオングループに属しており、2016年にはマツモトキヨシを抜いてドラッグストア業界首位の座を得ました。

小売業界は少子化による人手不足、賃金上昇などの労務コストの向上、食品ロスや返品の増大など多くの課題を抱えています。
経済産業省は、こうした小売業界の課題を解決する一つの手段として、RFIDの導入を推進しています。
コンビニ電子タグ1000億枚宣言を策定し、2025年までに実用化を目指しています。
また日本チェーンドラッグストア協会もドラッグストアスマート化宣言を策定しており、業界全体でRFIDの利活用に期待が高まっています。

ウエルシア薬局では、この取り組みに賛同し、2019年2月4日からRFIDタグの貼り付けを開始し、約2週間RFIDの実証実験を行いました。
実験要領は以下の3点です。

 

1.レジでのRFID読み取り率の検証

2.棚卸作業の効率化検証

3.ダイナミックプライス運用による効果検証

 

ダイナミックプライスとは、動的に価格設定を変更することです。需要の状況に応じて価格を変動させるマーケティング手法です。
ウエルシア薬局では、食品を取り扱っている為、賞味期限切れ間近の商品の価格を下げることで、廃棄ロスを削減する取り組みにRFIDを活用しました。

 

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実験店舗は同社の千代田御茶ノ水店。2月14日には、全商品にタグ付けが完了し、棚卸を実施しました。
そして翌日2月15日から28日まで、おにぎり・弁当・日配・パンに毎日タグを印刷して貼り付けた後に陳列を行いました。(新聞、雑誌、たばこは対象外)

同店舗では、毎朝7時45分に日配商品が入荷します。
商品群で仕分けを行い、朝の購買頻度の高いおにぎり、サンドイッチから先にタグを貼り付けしました。
賞味期限を入力してタグを発行し、9時までには貼り付けを行います。約450ピースを4人で貼り付けして、およそ75分かかりました。
その後、昼に100ピース、夕方50ピース、別途ドライセンター納品分800ピースが入荷される毎にタグを張り付けしました。

 

*** 棚卸作業の効率化検証結果について ***

 

RFIDによる棚卸実証実験を1回目は2月14日、2回目は28日に実施しました。
2月14日はRFID端末機器2台を利用して21時45分から翌朝の2時まで作業しました。
2回目の28日はRFID端末機器を3台に増やして19時30分からカウント開始し、22時に作業を終了しました。

棚卸の作業時間については、大幅に時間短縮されました。
従来は約35人/時かかっていた棚卸が、RFIDの棚卸では約7人/時程度まで削減されたのです。

 

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そして棚卸で肝心なのは棚卸精度です。
今回の総カウントピース数は24,222ピースでした。気になる棚卸精度は、実棚対比97.1%でした。
差が出た主な商品はほとんどが飲料でした。電波が水分に弱いため、ケースの中に入っている飲料等が正しく読み取れなかった為と考えられます。

 

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*** ダイナミックプライス運用による効果検証について ***

 

おにぎり、弁当、パンなどの賞味期限が短い商品には、RFIDのタグに賞味期限情報を入力することで、ダイナミックプライスによるマーケティングを実施しました。
夕方16時点の見切り商品をデータ上で把握し、その情報を顧客のLINEに17時に配信することで、来店を促進し廃棄ロス削減に繋がるかを実験しました。

千代田御茶ノ水店がある場所はビジネス街のため、平日はおにぎりや弁当がよく売れますが、土日はあまり売れないため、実験は平日のみを対象に行われました。
実験開始前の2月1日~2月14日と実験開始後の2月15日~2月18日の土日を除く2週間で検証を行いました。

結果、オリジン弁当が1日平均116個から137個に増え、旬菜は26個から40個に増えました。
検証の結果、これまでは廃棄を恐れて十分な発注が行えていないことも判明しました。
このシステム利用して、強気で発注を行えば、売り上げが上がり非常に有効であることが分かりました。

 

*** 今回の実験で得たRFIDタグの成果 ***

 

入荷検品時にオリコン(箱)を開けずにカウント出来るので入荷検品の時間が大幅に短縮出来ました。
また伝票で突合する必要がなく電子データのみで完結できる点も効果を実感できました。
レジの会計については、商品を1個1個スキャンしなくてもよいため、時間短縮になりました。
(※ただし、読み取り率については水物、アルミパック商品について課題があり、まだ精査中とのことです。)

一番の効果は棚卸でした。また陳列されている商品がデータで分かるので、これを応用して防犯対策にも利用出来そうです。
またダイナミックプライス等の販売促進とRFIDタグを連動させることで、店内広告やクーポン等有効活用が期待できます。

 

*** 今回の実験で得たRFIDタグの課題 ***

 

ドリンク、酒、シャンプー、ボディソープ等以外に水物商品が多くRFIDタグの読み取り精度に課題がありました。
またアルミ包装のお菓子なども読み取り精度に課題がありました。
アイスや冷凍食品については、タグを氷に直接貼っているのと同じで、すぐに剥がれてしまうので、ソースタギングが必須ということが分かりました。
どこまで読み込んでいるのかを可視化出来ない点も課題でした。
そして、マンパワーのみで全商品にタグを貼り付けすることは不可能だということも実際にやってみて分かりました。
本当に大変な2週間であったということです。

 

*** まとめ ***

 

今回の検証結果の報告を聞いて感じたことは、やはり経済産業省が宣言した1000億枚を実現するには、ソースタギングが必須であるということでした。
その為にはやはり製造メーカーの協力が不可欠です。
メーカー側で期待できる効果としては、需要予測ミスによる欠品率や返品率の低減、製造工程不具合による商品回収の低減等でしょうか。
いずれにしても、RFIDタグを貼ることによって、社会全体でもっと便利な生活をどのように創造していけるかが普及の鍵であると思います。
まだまだ道半ばですが、今後の動向に注目したいと思います。

 

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