経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第十回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第十回-

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画像素材:ALotOfPeople / PIXTA

 

*** 時代を超えて際立った存在であり続ける ***

 

24時間365日いつでも、太陽や星を見て正確な時間を言い当てることが出来る人がいたとします。
その人に今の時間を尋ねると、「午後2時30分15秒です」といつも正確な時間を教えてくれます。
この人物は誰もが認める驚くべき才能の持ち主であり、その時を告げる才能によって多くの尊敬を集めることでしょう。

しかし、この人物がこの世を去った後は、その才能は語り草にはなっても、次の世に何も残しません。
この人物が生きている間に誰もが時間を正確に確認できる”時計”をつくったとしたら、もっと驚くべき偉業として時代を超えて貢献できたでしょう。

天才的な閃きと先見性でいくつものアイディアを生み出し、驚異的な実行力でカリスマ経営者として存在するのは、「時を告げる」人物です。
逆に一人の経営者の代をはるかに超えて、いくつもの商品のライフサイクルを通じて繁栄し続ける会社を築くのは「時計をつくる」人物です。

 

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ウォルマート創業者のサム・ウォルトンは、考えられるかぎり最高の小売企業を築くことにずっと力を注ぎました。
目標はそれだけだったと生前彼は語っています。

カリスマ的な経営者として周りから尊敬を集めることに全力を傾けるのではなく、建築家のように最高傑作の会社を築くことに力を注ぎましょう。

デジタル化社会においては、リアルな物流データは産業の基盤として機能するようになります。
経営者にはいま、次の時代の産業を支える物流を築くために破壊的創造を迫られているわけですが、このチャンスを生かすも殺すも経営者の発想を切り替えることができるかどうかにかかっているのです。

「時を告げる」発想から、「時計をつくる」発想への転換です。
時代を超えて際立った存在であり続ける企業を築きましょう。

 

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*** 生産性向上特別措置法について ***

 

2018年6月に施行された「生産性向上特別措置法」により、2020年までの3年間限定で、中小企業の先端設備導入計画に対して国が設備投資支援を行っています。
IoTや自動運転、ドローン、ロボット、といった先端テクノロジーを活用した実証実験に対する規制を一部凍結しています。

※中小企業庁の以下のサイトより詳細な資料がダウンロード出来ます。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/seisansei/index.html

中小企業の経営者はこうした制度を積極的に活用して、物流の自動化や高度情報化へのチャレンジを行ってほしいと思います。

こうした流れは物流事業者にとっても追い風です。この機会に物流の生産性革命を目指しましょう。

 

■先端設備等導入計画のスキーム
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※出典:経済産業省・中小企業庁作成「生産性向上特別措置法」

 

先端技術の活用については、「総合物流施策大綱」でも取り上げられています。
サプライチェーン全体の効率化と価値創造、物流の透明化と効率化、インフラの機能強化による輸送効率向上、サステイナブルな物流の構築、物流分野での新技術を活用した新規産業の創出など、この物流政策の基本方針のいずれも先端技術の採用を無視することは出来ません。

※「物流施策大綱」についての詳細は以下記事をご参考下さい。
https://www.inter-stock.net/column/no210/

先端技術の採用には、実証実験がどうしても必要になります。
新技術については、これまで企業がリスクを伴ったチャレンジがしづらい状況にありましたが、こうした制度を利用して、先端技術の採用に積極的にチャレンジした頂きたいです。

 

*** 物流のリアルデータを集め、共有する ***

 

物流に携わる企業や経営者は、次の時代に受け継がれる経済のエコシステムを作ることが出来るポジションにいると思います。
自社の製品やサービスをネットワーク端末として捉えて、そこから物流のリアルデータを収集し、お客様にサービスを提供する
ビジョンを描いてみてください。

そうしたデータはクラウド環境に集まり、その上に様々な産業が成り立つと言ったイメージです。

物流に携わる経営者がこうしたビジョンを持って、次の世代に受け継ぐプラットフォームを作っていく必要があります。
物流領域で収集されるリアルなデータは最も信頼性が高く、最も価値のあるデータであり、そのデータの活用方法は無限です。

自社の物流オペレーションの効率化だけを考える時代は終わりを迎えました。
中小の物流事業者では、未だに紙やFAXなどによるアナログ作業によって、肝心の物流データがデジタル化されていない企業が多いのです。
最近のシステムを活用すれば、それほどお金をかけずに簡単にこうしたデータはデジタル化して、クラウド上に集約し、多くの人と共有が出来ます。

簡単な物流システムパッケージであれば数百万、AWS等のクラウド環境の利用は月に数万円です。
まずは自社のリアルな物流データをどんどんデジタル化してクラウド等の皆で共有可能な場所に蓄積しましょう。
そこが第一歩です。

データが集まれば、そのデータをオープンにして、プラットフォームとして共有することで新たなサービスを検討してみましょう。

未来のロジスティクスにはこうした地道な取り組みが欠かせません。
納入先・サイズ・重量・商品カテゴリなど、日々の大量の輸送に関する詳細なデータが蓄積された先に、物流のデジタル化があります。
こうしたデータは物流オペレーションの効率化にもつながりますが、経営戦略レベルでの活用も行えます。
そこに新しいビジネスモデルを生み出す大きな可能性が秘められています。

今、製造業では「スマートコネクテッドプロダクト」が注目を集めています。
IoTを活用して、常時接続可能なデバイスを製品に埋め込み、リアルタイムに製品の利用データを収集する仕組みです。
集められたデータを製造プロセスやアフターサポート、マーケティングに活用しようという考え方です。

自社のサプライチェーンからどのようなデータを収集できるか考えてみてください。
どういったデータの蓄積が顧客に貢献出来るのかを考えてみてください。
もしかするとそのデータは顧客だけではなく、他社のビジネスにも貢献できるかもしれません。
他社にそうしたデータを提供することで、サプライチェーンにどのような貢献が出来るか検討しましょう。
そのデータを販売することで新たなサービスが生まれるかもしれません。

2018年2月、ダイキン工業は空気や空間に関するデータを蓄積・分析して関連企業と共有する協創型プラットフォーム「CRESNECT(クレスネクト)」を公開しました。
自社の空調機をネットワーク端末として利用し、センサーやカメラから得られる温度・湿度・明るさ・人の位置・動きなどに関するデータをビッグデータとして蓄積します。
このデータをAI(人工知能)等で解析することで、新たなサービスの創出、価値の提供を検討出来るのです。

 

■空間をつなぐ、協創プラットフォーム「CRESNECT」のイメージ
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※出典:ダイキン工業

 

あのトヨタ自動車も自動車メーカーからモビリティカンパニーへの変貌を宣言しています。
クルマをネットワーク端末として、そこから集まってくる走行距離・速度・温度・タイヤの摩耗度等を使って、製品開発やパートナー企業への提供、顧客体験の向上を目指しているのです。

物流デジタル化の先にある次の世代のエコシステムの創造に向けて、失敗を恐れずにチャレンジしましょう。
R・W・ジョンソン・ジュニア(ジョンソン&ジョンソンの元CEO)は、かつてこう言いました。

~失敗は、当社にとって、もっとも大切な製品である~

 

業種別物流改善20のヒント

 

参考文献
J.C.コリンズ&J.I.ポラス著「ビジョナリー・カンパニー」
経済産業省「生産性向上特別措置法による支援」
秋葉淳一著「IoT時代のロジスティクス戦略」
ライノス・パブリケーションズ発行「月間ロジスティクスビジネス」
アイティメディア株式会社「MONOist」