物流・倉庫改革の夜明け

SAPの在庫管理とは?WMS連携による課題解決と効率化も解説

製造業における在庫管理は、企業の競争力を左右する重要な要素です。多くの企業がSAP ERPを導入し、統合的な企業システムとして活用していますが、在庫管理においてはその限界も見えてきています。
かつてドラッガーが「測定できないものは改善できない」と述べたように、正確な在庫把握こそが効率的な物流の出発点となります。しかし、SAPだけでは現場レベルでの細やかな在庫管理に課題が残るケースが少なくありません。
本記事では、SAP標準の在庫管理機能の特徴から課題、そしてWMS(倉庫管理システム)との連携による解決策まで、物流デジタル化の専門家として詳しく解説します。経営層の皆様には、在庫管理の高度化が企業の競争力向上にどう寄与するかという視点でお読みいただければ幸いです。
2025年08月10日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
SAPの在庫管理機能とは
SAP ERPには、MM(在庫・購買管理)モジュールを中心とした強力な在庫管理機能が標準搭載されています。この機能により、「何が、いつ、どこに、どれだけあるか」という在庫の基本要素を精密に管理することができます。
具体的には、品目マスタと連携した在庫数量の把握、保管場所(ストレージロケーション)別の在庫管理、ロット管理、在庫のステータス管理(利用可能、移動中、品質検査中など)が可能です。また、原価管理との連携により在庫評価額の算出や、移動平均法などの原価計算手法を用いた在庫コストの見える化も実現できます。
SAP標準機能の優れた点は、販売管理、購買管理、生産管理といった他の業務プロセスとシームレスに連携していることです。受注時の在庫引当から製造指示による在庫消費、入庫による在庫増加まで、一連の業務フローの中で在庫データが自動的に更新されます。これにより、経営層は統合された視点で在庫状況を把握でき、適正在庫の維持や在庫回転率の改善といった経営指標の管理が可能になります。
SAPだけで在庫管理を行う際の課題
しかしながら、SAP標準機能だけで在庫管理を運用する場合、現場レベルでは様々な課題が浮上します。特に物流現場からの要求に対して、以下のような限界が指摘されています。
細かいロケーション管理の限界
SAP標準の在庫管理では、保管場所(ストレージロケーション)単位での在庫管理は可能ですが、倉庫内の具体的な棚番レベル、いわゆる「ビン(Bin)」レベルでの詳細な位置管理には限界があります。
実際の倉庫現場では、同じ品目でも入庫時期やロット、品質状態によって異なる棚に保管されることが一般的です。しかし、SAP標準機能だけでは「A棚の3段目の左から2番目」といった具体的な保管位置を効率的に管理することは困難です。
この結果、ピッキング作業時に作業者が商品を探し回る時間が発生し、作業効率の低下を招きます。この「探す時間」こそが物流プロセス全体のボトルネックになっている可能性があります。
リアルタイム性・精度の不足
SAP標準機能では、在庫データの更新がリアルタイムに行われないケースが多く見られます。特に夜間バッチ処理による更新を採用している企業では、日中の在庫変動が即座にシステムに反映されません。
この時差により、システム上は在庫があるのに実際にはない、または逆のケースが発生し、現場作業者の混乱や出荷遅延の原因となります。製造業において、この在庫データと現物の乖離は重大な問題です。なぜなら、不正確な在庫情報は生産計画の精度を下げ、結果として顧客への約束を守れない事態を招く可能性があるからです。
棚卸時に原因不明の差異が頻繁に発生するのも、このリアルタイム性の不足が一因となっています。差異の原因究明に多くの時間を費やし、本来の業務改善活動に充てるべき時間が削がれてしまうのです。
現場ニーズへの対応力不足
SAP標準の画面構成は、財務・会計的な観点から設計されているため、現場作業者にとって必ずしも使いやすいものではありません。複雑な画面操作や多くの入力項目は、現場での迅速な作業を阻害する要因となります。
また、現場では紙やExcelを用いた運用が併用されることが多く、後からSAPにデータを入力するという二重管理が発生しがちです。この運用では、入力遅れやミスが頻発し、在庫精度の低下を招きます。
効果的な業務プロセスには「理解してから理解される」という相互理解が重要です。しかし、現在の多くの企業では、システムの都合に現場を合わせるという一方通行の関係になっており、真の意味での業務最適化が実現できていません。
業務フローの複雑化による生産性低下
SAP標準機能は多機能である反面、現場では使用しない機能も多く含まれており、画面構成が複雑になりがちです。この複雑さは、新人教育の負担増加や、ベテラン作業者でも操作ミスが発生するリスクを高めます。
変化への対応スピードの課題
市場環境の変化に応じて業務プロセスを柔軟に変更する必要がありますが、SAP標準機能のカスタマイズには専門知識と長期間を要します。この対応の遅さが、競争力の低下につながる可能性があります。
WMS(倉庫管理システム)とは何か
WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)は、倉庫内の在庫と作業を専門的に管理するシステムです。SAPが企業全体の統合システムであるのに対し、WMSは倉庫・物流現場に特化した専門システムとして位置づけられます。
WMSの主要機能には、入庫管理、在庫管理、出庫管理、棚卸管理があります。これらの機能により、商品の入荷から出荷までの一連の流れを最適化し、在庫の正確性と作業効率の向上を実現します。
特筆すべきは、WMSがハンディターミナルやバーコードスキャナー、RFIDといった現場機器との親和性が高いことです。これにより、現場作業者は直感的な操作で正確な在庫データをリアルタイムに更新できます。
近年では、AI技術を活用したピッキングルートの最適化や、IoTセンサーによる自動データ収集など、先進的な機能を搭載したWMSも登場しています。これらの技術により、従来の人的作業に依存していた部分を自動化し、さらなる効率向上を図ることが可能です。
SAPとWMSを連携するメリット
SAPとWMSを連携させることで、それぞれの強みを活かしながら弱点を補完する理想的な在庫管理システムを構築できます。
在庫精度の飛躍的向上
WMSの導入により、入出庫時のバーコードスキャンやハンディ端末での検品が徹底され、人的ミスを大幅に削減できます。リアルタイムでの在庫更新により、システム在庫と現物在庫の乖離を最小限に抑制し、在庫精度99%以上を実現する企業も少なくありません。
この高精度な在庫情報がSAPに連携されることで、販売計画や生産計画の精度も向上し、企業全体の意思決定の質が高まります。適正在庫の維持により、過剰在庫による資金圧迫や欠品による販売機会損失を防ぐことができます。
倉庫業務の効率化と可視化
WMSによる作業指示の最適化により、ピッキング効率を30~50%向上させる事例が報告されています。システムが最適なピッキングルートを自動計算し、作業者は端末の指示に従うだけで効率的な作業が可能になります。
また、作業実績データがリアルタイムに蓄積されることで、作業者別・時間帯別・商品別の生産性分析が可能になり、継続的な改善活動のベースとなります。
属人化の解消と人材育成の用意化
WMSの導入により倉庫作業が標準化され、属人的なノウハウに依存しない運営が可能になります。新人作業者でも、システムの指示に従うことで一定品質の作業を実現でき、教育期間の短縮とベテラン作業者の負担軽減につながります。
標準化は企業の競争力強化において重要な要素です。属人化を解消することで、人材の流動性への対応力が高まり、安定した物流品質を維持できます。
SAPとのデータ連携による全体最適
WMSで収集された詳細な在庫・作業データがSAPに連携されることで、財務会計、販売管理、生産管理といった他の業務プロセスとの連携が強化されます。これにより、部分最適ではなく全体最適の視点での意思決定が可能になります。

SAPとWMSの連携方法
SAPとWMSの連携には、複数の技術的手法があります。それぞれの特徴を理解し、自社の業務要件に最適な方式を選択することが重要です。
ファイル連携
CSV形式やテキストファイルを介してデータを受け渡す最もシンプルな連携方式です。SAP側でエクスポートしたデータをWMSが取り込み、WMSの処理結果をSAPに返すという流れになります。
メリットとしては、開発コストが比較的低く、システム間の独立性が保たれることが挙げられます。一方、リアルタイム性に劣り、ファイル転送の管理やエラーハンドリングが課題となります。
主に夜間バッチ処理での運用に適しており、リアルタイム性をそれほど重視しない業務での採用が一般的です。
データベース直接連携
SAPのデータベースとWMSのデータベースを直接接続し、テーブル間でデータを受け渡す方式です。中間ファイルを介さないため、高速なデータ連携が可能になります。
ただし、両システムのデータベース構造に精通した開発が必要で、システムのバージョンアップ時の影響を慎重に検討する必要があります。また、データベースレベルでの密結合となるため、運用面での注意が必要です。
API連携
近年主流となっている連携方式で、SAP側のIDoc(Intermediate Document)やWMS側のREST APIを利用してオンラインでデータ連携を行います。
リアルタイムに近い形での在庫引当や実績更新が可能で、将来的な機能拡張にも対応しやすいという特徴があります。多くのモダンなWMSがAPI連携を標準サポートしており、技術的な選択肢として推奨される方式です。
SAPとWMSを連携する際の注意点・確認事項
連携を成功させるためには、技術的な側面だけでなく、業務的な観点からの検討も重要です。
データ整合性の確保
品目マスタや顧客マスタなど、基準となるマスタデータの整合性確保は連携の成功を左右します。一般的にSAP側でマスタを一元管理し、WMS側に同期する構成が推奨されます。マスタデータの項目定義、桁数、必須項目などを事前に詳細設計することで、連携エラーを防止できます。
在庫の主導権設定
在庫データをどちらのシステムで管理するかは重要な判断ポイントです。従来はSAP側で在庫を管理するケースが多かったのですが、近年はリアルタイム性を重視してWMS側で在庫を一元管理し、実績をSAPに連携する構成が増えています。
この判断は、業務の特性や在庫回転率、品目数などを総合的に考慮して決定する必要があります。
障害時の業務継続計画
システム障害時の業務継続計画(BCP)も重要な検討事項です。連携システムが停止した場合の手作業での対応手順や、復旧時のデータ整合性確保の方法を事前に定めておく必要があります。
SAPとWMSを連携する際の流れ(弊社WMSの場合)
弊社が独自開発したインターストックWMSを用いたSAP連携プロジェクトの標準的な流れをご紹介します。
1. 現状業務分析と要件定義
まず、現在の在庫管理業務フローを詳細に分析し、SAPとWMSの役割分担を明確化します。理想とする業務フローから逆算して要件を定義します。
この段階で、連携データ項目、更新タイミング、エラーハンドリング方法などの詳細仕様を確定します。
2. 連携方式の選定と技術設計
業務要件に基づいて最適な連携方式を選定し、技術的な詳細設計を行います。この際、パフォーマンス、保守性、拡張性を総合的に評価して判断します。
3. 開発・テスト環境構築
開発・テスト環境を構築し、連携プログラムの開発を進めます。テスト環境は、開発テスト、システムテスト、ユーザー受入テストの3段階で構成します。各段階で異なる観点からの検証を実施することで、本稼働時の安定性を確保します。
4. 単体テスト・結合テスト実施
各システム単体でのテストを完了後、システム間の結合テストを実施します。正常系だけでなく、異常系のテストも十分に行い、本稼働時の安定性を確保します。
5. 本稼働・運用開始
段階的な本稼働移行により、業務への影響を最小限に抑えながら新システムを導入します。運用開始後も継続的な監視とパフォーマンス改善を実施します。

SAP連携可能なローコードWMS「インターストック」の特徴
数あるWMS製品の中でも、インターストックWMSは独自のアプローチで柔軟性と導入効率を追求しています。
ローコード開発による迅速なシステム対応
直感的な操作で必要な業務画面や機能を開発できるローコード環境を提供しています。これにより、従来比で開発コスト50%削減を実現し、現場の要望に迅速に対応することが可能です。本当に必要な機能を短期間で実装でき、この現場主導の開発スタイルは、使い勝手の良いシステム構築につながります。
ソースコード完全公開で内製・拡張が容易
インターストックWMSでは、全てのソースコードとデータベース構造をユーザー企業に公開しています。これにより、ベンダーロックインから解放され、自社の技術力で長期的にシステムを発展させることができます。
内製化が実現すれば、将来的な追加開発コストの大幅削減が期待でき、システムのライフサイクル全体での投資対効果が向上します。
現場ニーズに合わせた柔軟なカスタマイズ性
倉庫現場で使用する画面や帳票を、プログラミング不要で自由にカスタマイズできます。スマートフォンやタブレット向けの作業画面も簡単に作成でき、現場の動線変更や新しい業務ルールにも即座に対応可能です。
この柔軟性により、「システムに業務を合わせる」のではなく、「業務にシステムを合わせる」という理想的な運用を実現できます。
まとめ
SAP標準の在庫管理機能は企業の基幹システムとして重要な役割を果たしていますが、現場レベルでの細やかな在庫管理には限界があります。WMSとの連携により、リアルタイムな在庫可視化と現場オペレーションの効率化を実現し、企業全体の競争力向上に貢献できます。
物流デジタル化は、単なるシステム導入ではなく、業務プロセス全体の最適化を目指す取り組みです。SAPとWMSの連携は、この目標に向けた重要なステップとなります。
経営層の皆様におかれましては、在庫管理の高度化が顧客満足度向上、コスト削減、そして企業価値向上に直結することをご理解いただき、戦略的な投資判断をしていただければと思います。
インターストックWMSは、SAP連携の豊富な実績とローコード開発による柔軟性で、皆様の物流デジタル化を強力にサポートいたします。在庫管理の精度向上と業務効率化をお考えの方は、ぜひ一度詳細資料をご請求いただき、貴社の課題解決にお役立てください。




