物流・倉庫改革の夜明け

食品ロス問題を物流・在庫管理から解決するには?企業が取り組むべき対策

- 売れ残った食品の廃棄が多く、在庫ロスでコストがかさんで困っている
- 安全在庫を厚めに持つせいで賞味期限切れが発生し、食品を捨てることに罪悪感がある
- 食品ロスを減らしたいが、具体的に物流や在庫管理で何を改善すれば良いのかわからない
食品ロス(まだ食べられるのに捨てられる食品)の削減は、多くの食品企業や物流担当者に共通する悩みです。
日本では令和5年度時点で、年間約464万トンもの食べられる食品が捨てられております。しかも食品ロスの発生源は家庭だけでなく企業にも及び、日本の食品ロスの約半分は製造・卸・小売など事業者から出ています。
このままでは環境への負荷や企業の経済損失が膨らみ続け、いずれ社会的な批判や規制強化につながる恐れもあります。
実は、食品ロスの多くは物流や在庫管理の問題に起因しています。「過剰生産・過剰在庫」「需要予測のミス」「厳しすぎる商慣習による返品」などが主な原因であり、これらを見直すことで大幅な削減が可能です。
この記事では、食品ロス削減のカギとなる物流・在庫管理の具体策を解説します。食品業界の物流担当者や中小企業経営者の方がすぐに実践できるよう、ポイントを整理しました。
結論:適正在庫の徹底とサプライチェーン全体の情報共有こそが食品ロス削減の決め手です。 需要に見合った生産・流通体制を整え、業界の慣習をアップデートし、IoTやAIも活用すれば、食品ロスは確実に減らせます。
それでは、具体策を一つずつ見ていきましょう。
食品ロスの現状と物流との関係
日本の食品ロス問題は深刻です。令和5年度(2023年度)には、年間約464万トンもの食べられる食品が捨てられています。その内訳は、消費者庁・環境省・農林水産省の推計によれば、家庭系が約233万トン、事業系が約231万トンです。
食品ロスは国民一人あたり年間約37kgに相当し、毎日おにぎり1個分(102g)以上が捨てられている計算になります。このように家庭からのロスだけでなく、企業(事業者)からの食品ロスもほぼ半々の割合で発生しており、企業の取り組みが不可欠です。
なぜ大量の食品ロスが事業者から出てしまうのか?
その背景には物流・在庫管理上の問題が潜んでおり、例えば以下のような原因が挙げられます。
過剰生産・過剰在庫
需要以上に商品を作り過ぎたり仕入れ過ぎたりして、売れ残りを出してしまうケースです。品切れ防止のため必要以上の安全在庫を抱える企業は多いですが、その結果在庫がさばけず廃棄につながります。
需要予測の失敗
経験や勘に頼った販売予測が外れると、商品が売れ残って在庫過多になります。季節変動の大きい食品では天候やイベントの影響を読み違え、結果として大量の売れ残り=食品ロスになる例も少なくありません。
返品と商慣習の問題
小売店からメーカー・卸への返品も食品ロスの大きな要因です。特に日本固有の「3分の1ルール」と呼ばれる納品期限の商習慣によって、賞味期限が十分残っていても期限前に返品・廃棄される事例が頻発しています。
この「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までの期間を3等分し、最初の1/3以内を納品期限、次の1/3までを販売期限とする業界慣習です。例えば賞味期間180日の商品なら製造後60日以内に小売に納品し、残り60日(製造120日後)までに売り切る必要があります。
消費者に常に新しい商品を届けるための配慮とも言えますが、この厳しすぎるルールが返品・廃棄の構造を生み食品ロスを拡大させています。
実際、賞味期限内にもかかわらず「納品期限切れ」で行き場を失い、メーカーに返品された末に捨てられる食品が数多く存在します。
商慣習の見直し:3分の1ルールから2分の1ルールへ
業界全体で長年当たり前とされてきた3分の1ルールですが、さすがに問題視され国や企業も改善に乗り出しました。経済産業省は2013年度に納品期限を賞味期間の2分の1まで緩和するパイロット事業を実施し、大手スーパーやコンビニで半年間検証しています。
その結果、納品期限切れによる返品・廃棄が減少し、**緩和による食品ロス削減効果は年間約40,619トン(事業系食品ロスの約1.0~1.4%)に上ると報告されました。
また賞味期間の長い飲料や菓子では特に廃棄削減効果が大きかったことも分かりました(賞味期間180日以上の菓子類等で顕著)。期限管理に少し余裕を持たせるだけで、これだけの効果があるのです。
【2019年】食品ロス削減推進法
その後、2019年に食品ロス削減推進法が施行され、官民あげて食品ロス削減に取り組む方針が示されました。業界でも商慣習見直しの動きが徐々に広がり、納品期限ルールを従来の「1/3」から「1/2」に緩和する企業が増えています。
実際、2013年に一部で始まった「2分の1ルール」は2021年にはスーパー約100社、生協33団体、コンビニ8社、ドラッグストア13社に拡大しました。
賞味期間180日の商品なら納品期限が60日→90日に延びる計算で、現場の期限管理が格段にしやすくなり廃棄ロス減少につながります。
もっとも、まだ緩和していない企業も存在し、品目ごとに対応がまちまちなど、流通全体で統一されたルールには至っていません。
卸売現場からは「取引先ごとに納品期限が異なり対応が煩雑」との声もあり、業界全体で足並みを揃えないと卸段階での効率化は進まないとも指摘されています。
需要予測の精度向上で在庫廃棄を減らす
食品ロス削減のもう一つの重要ポイントが需要予測の精度向上です。売れ行きの読みにくい商品でも、データ分析を駆使すれば予測精度を高め過剰生産を防げます。実際の成功事例を見てみましょう。
群馬県の豆腐メーカー「相模屋食料」
群馬県の豆腐メーカー「相模屋食料」は天気と売上データを分析することで劇的な改善を遂げました。日本気象協会のサービスを活用し、過去の気象データと販売実績をAI解析したところ、「寄せ豆腐」は連日暑い日よりも「前日より急に気温が上がった日」によく売れるという傾向が判明しました。
つまり「暑さを実感したタイミング」で購買ニーズが高まるわけです。この洞察を生産計画に反映した結果、寄せ豆腐の廃棄量を約30%削減することに成功しています。
コンビニ大手ローソン
コンビニ大手のローソンはAIを活用した次世代発注システム「AI.CO(AIカスタマイズドオーダー)」を開発し、2024年7月までに全国の店舗へ導入しました。
各店舗の過去の販売データや天気・在庫情報などから需要を予測し、最適な発注数を算出するシステムで、在庫不足と過剰発注を同時に防いでいます。
イオンリテール
イオンリテールでも独自のAI需要予測システム「AIオーダー」を約380店舗に導入した結果、発注精度を従来比で最大40%も改善し、在庫の適正化につなげました。
AIによる需要予測は、人間には難しい天候変化やトレンドの影響を織り込める点が強みであり、無駄な在庫を減らし食品ロスを防ぐ切り札となり得ます。
中小のメーカー・卸売業でも、POSデータや地域の気象情報を活用する余地は大いにあります。大規模なAI導入が難しくても、手に入るデータをフル活用して需給調整する工夫を凝らしましょう。天気予報と販促計画を照らし合わせ発注量を微調整する、過去の売上傾向から繁閑期の生産量を見直すなど、小さな改善の積み重ねが大きな食品ロス削減につながります。
在庫情報の共有と「顧客在庫の見える化」
自社内の在庫管理を徹底するのは当然ですが、さらに進んで「取引先(顧客)の在庫まで視野に入れる」ことが食品ロス削減の鍵になります。
メーカーや卸がどれだけ自社在庫を最適化しても、小売店で過剰在庫や大量返品が起きていては根本的な解決になりません。
川下(小売・消費者)の実需を的確に捉え、川上(メーカー側)の生産・供給計画に反映させるには、取引先と在庫・販売データを共有し、一体となって需給調整を行うことが重要です。
具体的に企業が取り組むべき施策を4つ挙げます。
定番商品の継続提案を強化する
小売側で安易に棚落ち(定番取り扱い終了)させないよう、メーカー・卸は年間の販売計画を提示し継続販売を提案します。実はメーカーへの返品理由の約37%は「定番カット」によるもので、最大の要因との調査もあります。
人気商品はできるだけ扱い続けてもらい、大量返品を防ぎましょう。
データ提供で発注支援を行う
自社が持つPOSデータや市場動向を分析し、取引先に共有します。例えば「昨年同月比の売上増減」「商品カテゴリーごとの売れ筋・死に筋」などをフィードバックし、小売店が発注精度を上げられるよう支援します。
天候データ×需要予測の結果を提供するのも有効です。データに基づく発注支援はフードロス削減と販売機会ロス防止の両面にメリットがあります。
営業担当の評価指標に返品削減を組み込む
単に「売上ノルマ達成」だけを営業の評価とせず、返品や廃棄ロスの発生も評価に影響する仕組みにします。売上だけを追うと過剰な売り込みにつながりがちですが、返品削減も評価されるとなれば適正な販売に意識が向きます。
営業現場にも「売って終わりでなく最後まで責任を持つ」マインドを根付かせ、不良在庫の発生を抑制します。
卸売企業の販売力を可視化する
メーカーから各卸への商品預け後、どれだけ売り切ってくれるか把握し、評価します。前年の卸別販売実績と今年の納品量を突き合わせ、卸ごとの販売消化率を定量化します。
販売が振るわない卸にはフォローや販促協力を行い、逆に販売上手な卸には積極的に在庫を持ってもらうなど連携を強めます。卸ごとの販売力に応じた協業体制を築くことで、メーカー倉庫内だけでは防げなかった返品・廃棄の発生を抑えることができます。
以上のように、サプライチェーン全体で在庫情報を共有し、川上から川下まで適正在庫を保つ取り組みが重要です。
自社だけでなく取引先の在庫状況・販売状況まで「見える化」し、需要変動に一緒に対応していく姿勢が求められます。メーカー・卸・小売が互いに歩み寄り、在庫過多や欠品を未然に防ぐよう連携すれば、結果としてフードロス削減と物流効率化の両方で大きな成果が得られます。
IoT・WSM活用によるスマート在庫管理
近年はIoTセンサーやクラウドシステムを使ったスマート在庫管理も注目されています。庫内在庫の量や鮮度をリアルタイムに把握できれば、必要以上に在庫を持ちすぎることを防ぎ、消費期限切れのデッドストック発生も減らせます。
例えば、重量センサーで在庫量を自動計測する「スマートマット」は、多くの企業や施設で導入が進むIoT機器です。全日本空輸(ANA)の空港ラウンジではビュッフェ料理の残量管理にスマートマットを使い、「品切れを恐れて常に多めに用意していた結果、過剰在庫・廃棄が発生していた」という課題を解消しました。
また、倉庫管理システム(WMS)の導入も食品ロス削減に効果絶大です。WMSを使えば賞味期限やロット情報と在庫をひも付けて管理でき、先入れ先出し(FIFO)や期限の近い順から出荷するFEFO運用を徹底しやすくなります。
バーコードやハンディターミナルでロットを管理すればヒューマンエラーも防止可能です。実際、ある食品メーカーでは物流システム導入によりロット・日付管理のミスが減り、得意先ごとの細かな期限指定にも対応できるようになった結果、あらゆるロスを未然に回避できたと報告されています。つまり、在庫の鮮度管理をシステムで強化することは、食品ロス削減と品質保証の両面で重要な意味を持ちます。
今後はブロックチェーンで食品の流通履歴を追跡したり、需給に応じてリアルタイムで在庫を最適配分するAI物流など、より高度な技術活用も現実味を帯びてきています。物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、データドリブンでサプライチェーン全体のムダを無くすことが、これからの時代に競争力を保つ条件と言えるでしょう。
まとめ:「もったいない」の精神を共有しよう
食品ロス削減は環境負荷の軽減だけでなく、物流コストの削減や企業イメージの向上にも直結する重要課題です。幸い日本には「もったいない」という素晴らしい言葉があります。
まだ食べられる食品を捨てるのは「もったいない」──この精神を、食品を扱うサプライチェーンのすべての人々が共有し、それぞれの立場でできる改善に取り組むことが大切です。
本稿で紹介したように、物流・在庫管理の工夫次第で食品ロスは大きく減らせます。商慣習の見直しや需要データの活用、在庫の見える化と適正管理、そして最新技術の導入など、できるところからぜひ着手してください。食品ロス削減への一歩一歩の取り組みが、持続可能な社会への貢献であると同時に、貴社の業務効率や収益性アップにもつながります。
「もったいない」を合言葉に、サプライチェーン一丸となって食品ロス削減と物流改革を進めていきましょう!

