画像素材:PanKR /PIXTA
<目次>
1.はじめに
近年、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国民の意識の変化、経済・財政環境の悪化等を背景として、より質の高い
効率的な利用サービスの提供が求められています。当然ですが、医薬品の物流においてもサービスの質を維持しつつコス
トを削減するという命題を達成することが求められています。
とくにこの度の新型コロナウイルスによる混乱の中で医療や物流など人々の生活を支える産業の重要性がこれまで以上に
高まりつつあります。医療にとって医薬品や医療材料はなくてはならないものであり、極めて重要なものです。欠品や
遅滞が許されるものではなく、保管方法も様々なルールがあり、取り扱いや保安上の細心の注意が必要です。
以上のようなことを踏まえて、今回は「医薬品製造業」が倉庫管理システム(WMS)を導入する上で、失敗しないための
ポイントについて解説したいと思います。
2.医薬品物流の特徴
医薬品は沢山の種類がありますが、大きく分けると「医療用」と「一般用」に分類されその種類によって取り扱える店舗
や職種が制限されます。
「医療用」は医師や薬剤師など資格を持った専門家だけが取り扱い出来ます。一方「一般用」は消費者が直接店舗などで
手に取って購入出来る薬です。
通常、医薬品を市場に出荷する際は、医薬品販売業者による卸売販売によって保管および供給されます。主な供給先は小売
店舗や医療機関などです。ECなどの販売チャネルの多様化によって、今日の医薬品の流通経路はますます複雑になり、多く
の人々が関与するようになってきたため、トレーサビリティの重要性が増しています。
厚生労働省が作成した「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」を遵守し、流通経路の管理を保証することで、医薬品
の完全性を保持することが厳格に求められます。
本ガイドラインの中からWMS導入の際に機能要件として盛り込む必要がある項目についていくつかご紹介します。
1.在庫は使用期限順の先入れ先出し(FIFO)の原則に従って管理すること。
2.廃棄予定の医薬品は適切に識別し、隔離して一時保管し、手順書に従って取り扱うこと。
3.廃棄した全ての医薬品の記録を、定められた期間にわたって保管すること。
4.正しい製品がピッキングされたことを確実に保証するため、管理を行うこと。
5.適切な使用期間が残った製品のみがピッキングされること。
6.品名、ロット番号(ロットを構成しない医薬品については製造番号)、使用期限、数量を記録すること。
7.製品を販売可能在庫に戻す場合、使用期限の先入れ先出しシステムが有効に機能する場所に収容すること。
3.医薬品製造業のWMSに必要な機能
一般医薬の業界では、棚落ちによる多額の返品が長年の課題となっています。
2018年7月に大塚製薬株式会社が1,375社の取引先に対して返品実態の分析を行った結果、主な返品理由は以下の通りでした。
最も多かった返品理由は「ロット切迫・ロット切れ」で全体の7割を占めています。一般医薬の業界では、こうした
返品を削減するため、終売商品の在庫最適化、返品の主要因となるシーズン商品にフォーカスした対策が必要になります。
そのためには返品データを卸別、チェーン別、店別、商品別に分析する機能がWMSには必要です。
返品商品を倉庫で受け入れる際にバーコードハンディターミナルを活用して戻り先コード、数量をしっかりとデータ化
し、そのデータを取引先企業と共有しながら協働対応が必須と言えるでしょう。
(出典:大塚製薬)
その他、業界特有の課題を解決する為に、WMSに求められる主な機能をご紹介します。
1.適正に在庫を保つ為のアラート機能
WMS側で在庫数を適正にコントロールするためのアラート機能が必要です。特に新製品、季節品、セール対応品など過剰在庫、
返品対象になりやすい商品について未然に防ぐ仕組みを実装します。
2.ロット別出荷管理機能
製品、ロットごとに「有効期限」、「出荷期限」を登録、管理する機能は必須です。「出荷期限」を過ぎた製品、ロットは出荷されないよ
うチェックします。また納品先ごとに1/3ルールなど納品ルールが異なるので納品先マスタに納品ルールを設定する機能が必要に
なります。
3.アイテム種別管理機能
医薬品のアイテムには「生物由来品」「毒物・劇薬」「保冷品」などアイテムの種類によって保管方法、管理方法が法律で定められて
います。アイテムマスタにこうした分類を指定し、入庫や出庫に必要な警告を表示したり、保管場所のチェック機能が必要になります。
4.ロット逆転防止機能
在庫引き当て時にロット単位で先入れ先出しを行う機能は当然として、医薬品の場合更に、納入先単位でロット逆転防止の
機能が必要になります。納入先に納品した最終出荷のロットをデータベースに保存しておき、そのロットより古いロット
の商品は出荷出来ないように随時チェックする機能が必要です。
5.死蔵品(デッドストック)防止機能
一定期間使用されず動きの全くない物品を死蔵品(デッドストック)といいます。放置すると滅菌期限が切れたり、変色したり
してやがては医薬品としての価値・効能がなくなってしまいます。死蔵品については評価減や評価損として評価替えを行い、
最終的には廃棄処分をしなくてはなりません。どのくらいの期間、使用しないと死蔵品とするかが問題ですが、一般に医療
施設では、半期ごとで運営状態をみることが多いので、これに合わせ6ヶ月動きのない医薬品を死蔵品とする場合が多いです。
医薬品の種類ごとに期間を設定し、一定期間動きのない医薬品を死蔵品になる前に未然にアラートする機能が必要です。
4.おわりに
医薬品製造業者には高い品質の医薬品を患者に届けるまでの管理システムが必要となります。物流は高い水準の品質保証
の維持と流通過程での完全性の保証が求められます。倉庫の保管に関わる品質保証も重要となり、こうした要求を満たせる
高いレベルのWMSを導入しなければなりません。本稿を通して適切な形でWMSを導入頂き、効率的で安全な医薬品の物流が
行われることを望むととともに、これからWMS導入を検討されている企業に多少なりともお役に立てれば幸いです。