経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第五回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営を支える-経営者が学ぶITを活用した物流へのアプローチ -第五回-

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画像素材:chesky / PIXTA

 

*** デジタル化なくして企業は生き残れない ***

 

これから日本のサプライチェーンは大きく変化します。
そこで新しいポジションを取る、次世代型のSCMに変化していくことが求められていきます。
AI(人口知能)・ビッグデータ・ブロックチェーン・ロボット・IoT・5Gといったテクノロジーを使って世界中の企業がイノベーションを模索しています。

デジタル化の波に乗り遅れると、あっという間に追い越され、その波に飲み込まれてしまう状況にいるのだという危機感を全ての経営者は持つことが必要です。
決して皆さんの不安を煽っているわけではありません。
小さな企業でも大きなイノベーションを起こし、あっという間に新しいポジションを取れるチャンスであり、そのチャンスは世界中の企業に平等であるということを知って頂きたいのです。

では、第四次産業革命時代において一体何がイノベーションの源泉になるのでしょうか?
その答えは「データ」です。

未来学者のアレックス・ロス氏はこう言いました。

「農業時代には生産の基は土地だった。近代の産業革命により工業化が進むと鉄が産業の基になり、”鉄は国家なり”と言われるようになった。そして現代の高度情報化時代には、データが産業の基になる。」

今日、あらゆるデータが世界中のサーバーに飲み込まれ集積されています。
しかし、ビッグデータを手にした一部の企業だけが勝ちを独り占めするのは、社会最適化という観点からは好ましくありません。
今後データの価値が高まるにつれ、データは一企業のものではなく、社会に還元すべきものとして考えていく必要があるのです。
「データの民主化」は次世代型のSCMで極めて重要な価値となることは間違いないでしょう。

 

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*** SCMに革命をもたらすブロックチェーン技術 ***

 

これまでサプライチェーンの中では、企業は限られた情報にしかアクセスできませんでした。
川上、川下で情報は分断され、サプライヤーの生産能力や、需要変動といった情報を手に入れることは難しく、限られた情報で生産計画を立てるしかありませんでした。
それによって、過剰生産や欠品のリスクと常に隣合わせの状態が続いたのです。
こうした長年の課題を解決する新しいテクノロジーとして、ブロックチェーン技術をロジスティクスに応用する動きが始まっています。

これまで企業の情報は各企業のERPという閉じた中で処理され、サプライチェーン内の各プレイヤーとの情報共有はFAXやメールやEDIといった1対1のデータ交換が一般的でした。
特に、ロジスティクスのデータを活用していく立場から言わせて頂くと、物流は前後の様々な工程と強い関りを持っていながら、自社で持っているデータは全体のほんの一部でしかないのです。

 

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これに対して今起こりつつある流れは「データの民主化」です。
つまり、各プレイヤー間どうしで自由にアクセス出来る情報プラットフォームを活用して、各プレイヤーがそのデータを分析することで意思決定を行っていくというものです。
各プレイヤーは企業ERPの外にデータを提供し、そのデータを集積することでビッグデータを生成し、より精度の高い生産計画、需要予測を行うことが出来るようになるのです。

しかし、その場合ある重要な問題に直面します。
それは、各プレイヤーが作成したデータの信憑性です。
そのデータが嘘偽りのない正しいデータなのかを判断出来なければ、全員が誤ったデータを基に意思決定を行ってしまう事態になりかねません。

そこで、データの信憑性を担保するために活用が期待されている技術がブロックチェーンなのです。
ブロックチェーンを一言でいうと、「分散台帳」の仕組みの一つです。
分散型で改ざんが難しいデータベースを構築することが可能になります。
これまでの中央集権型のシステムは全てのデータが一ヵ所に集まっています。
それに対してブロックチェーンでは、各プレイヤーがデータを持ち、データの加工もそれぞれで自由に行います。
そして、その情報をブロックという単位にまとめてチェーン状につなげていきます。
そうすることで、すべてのデータの変更履歴が残るため、データの改ざんが出来なくなるという技術です。
もともとビットコインなどの仮想通貨で利用が始まり、現在では幅広い分野で活用が期待されています。

更には、プライベートブロックチェーンに適用されはじめている秘匿化技術によって、各プレイヤーは自社が登録した情報の出所を一切明かさずに、必要な情報にアクセスすることが可能になります。
例えば、自社の生産能力や品目単位のリードタイム情報、在庫情報を秘匿化した状態でブロックチェーンのネットワーク上に提供できるのです。
各プレイヤーが提供した情報をサマリーして分析した結果のみを、全員で共有し活用することで、サプライチェーン全体の需要を最適化出来るようになります。

 

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ブロックチェーン技術は、サプライチェーン内で十分なレスポンスが得られないため、既に失望期に入っているという声も聴きますが、実際に利用は進んでいます。
アメリカの郵政公社やUSPSは2015年ごろからいち早く荷物のトラッキングの仕組みにこの技術の応用を実験しています。

2018年9月に米ウォルマートは、より安全で手頃な価格の食品をお客様に提供することを目的として、ブロックチェーン対応の新しいWalmart Food Traceability Initiativeを発表しました。

IBMは2016年から米ウォルマートと、食品のトレーサビリティにブロックチェーン技術を使う実験を開始しています。
また同社はインドのマヒンドラグループと、物流や決済を含めたサプライチェーン全域でのブロックチェーン活用の実証実験を行っています。
また国内でも、大手製造業や大手商社を中心に、サプライチェーン内で需給を最適化するために、ブロックチェーンを利用する事例も出始めています。

 

*** まとめ ***

 

新しいテクノロジーの導入は確かに簡単ではありません。
経営者が中長期の成長戦略をきちんと描き、その計画を着地させる力があるかどうかが問われます。
新しいテクノロジーを導入したから経営が上手くいくようになるわけではありません。
縮小均衡のような計画しかなく、将来の成長を描けていない状態でテクノロジーを導入しても効果は期待できません。
ブロックチェーンのような技術についても同様で、中長期的な自社の成長戦略のなかでどのタイミングでどのように活用するかを検討し続けなければならないのです。

 

<参考文献>
Walmart: Food Traceability Initiative Fresh Leafy Greens
『月間ロジスティクス・ビジネス 2019年1月号』 ライノス・パブリケーションズ

 

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