経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第五回|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第五回

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 画像素材: tele52 /PIXTA

<目次>

1.新型コロナの感染拡大で混乱するサプライチェーン”

2.SCMで競争優位を生み出す5つの原則

3.第一原則:サプライチェーンと戦略の連携

 


1.新型コロナの感染拡大で混乱するサプライチェーン”

 

新型コロナウイルス感染症の拡大により、サプライチェーンが混乱しています。この混乱に対処するために企業ができるこ
ととは何でしょうか?

このような未曽有の事態に対処するには、状況を適切に把握して、生産量を調整したり、調達先を変更したりしながら、
サプライチェーンを柔軟に再構築する決断力と実行力が必要になります。まさに経営者の決断、実行による変化、変化、変化
です。

変化することを怠ったり、そのスピードやサイクルが鈍いと、あっという間にこの未曽有の事態の渦に飲み込まれてしまいます。
新型コロナウイルスの混乱が収まるまでは、経営者は危機的状況がもたらす変化に対してどのような計画を立てればよいか
頭を悩ませ続けることになるでしょう。

しかし、逆の見方をすれば、危機的状況はサプライチェーンを大きく変化させる機会でもあるのです。混乱の中から日々生ま
れる新しい課題に目を向け、既存のサプライチェーンの発注や補充の方式に手を加え、手作業による様々な調整をコントロール
しつつ、新たな仕組みを構築していくのです。

これを専門家は、「サプライチェーンの柔軟性」と表現し、その重要性を新型コロナの問題が起きるだいぶ以前から指摘して
いました。日本企業でSCM専門の部門が設けられている割合は約3割です。しかし、その3割の企業も今回のコロナ渦の対応に
おいて、現場の判断が優先され、SCM部門が需給量の調整や調達先変更といった運用面で機能していないのは残念に思います。

そこで、筆者はあらためて日本企業の経営者がサプライチェーンマネジメント(SCM)を原則から見直す必要があるとの認識に
立って、ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」の5つの原則を基に、今後経営者が注力すべき
SCMの課題について考察したいと思います。

※ショシャナ・コーエン・・・スタンフォード大学経営大学院グローバル・サプライチェーン・マネジメント・フォーラム
のディレクター


2.SCMで競争優位を生み出す5つの原則

 

全ての製造業にとって、サプライチェーンはそれそのものが貴重な財産であり、競争上の強みであり、付加価値を生み出す
源泉です。しかし、多くの経営者が自社のサプライチェーンに目を向けないのは何故でしょうか?革新的な製品、選ばれる
サービス、強烈な顧客体験、圧倒的なコスト競争力など、SCMが「強み」を実現する領域を過小評価しているのかもしれません。

超優良企業と呼ばれる企業は、自社のサプライチェーンを競争上の強みとして常に磨きをかけています。サプライチェーンで
付加価値を生み出し、パフォーマンスをさらに拡大する新しい方法を探求し続けています。

経営者が戦略的にサプライチェーンをマネジメントする上で、頭に入れておきたい5つの原則は以下の通りです。

原則1.サプライチェーンと戦略の連携
原則2.一貫性のあるプロセスの設計
原則3.サプライチェーン組織の構築
原則4.コラボレーションモデルの構築
原則5.パフォーマンスの測定

以下のグラフはこのコロナ渦の中で企業が今後注力すべきと考えているSCMの課題のアンケート結果です。最も回答が多かった
のは、「業務プロセスの改革」でした。

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(出典:月刊ロジスティクス・ビジネス2020年8月号より筆者作成)

多くの企業が、この変化にすばやく対応していかなければならないことを実感しています。しかし、長期的判断と短期的
判断のバランスをとることは極めて難しいものです。このような場合に、5つの原則を検討しておくことで、いつ問題が
浮上しても対処できる準備を整えつつ、将来的な差別化の武器になるサプライチェーンの構築も進めることができるよう
になるでしょう。


3.第一原則:サプライチェーンと戦略の連携

 

企業の経営者は、常に明確で実行力のあるビジネス戦略を周囲から求められます。サプライチェーン戦略もその一つであり、
製造業であれば、他社との差別化を可能にするビジネス戦略とサプライチェーンが密接に連携していなければ、その実現性
に疑問を抱かざるを得なくなります。

マーケティングの4Pによると、企業はProduct(プロダクト:製品)、Price(プライス:価格)、Place(プレイス:流通)
Promotion(プロモーション:販売促進)という4つの側面で競争しています。これらの要素で競合他社と差別化を図る
上で、サプライチェーンは大きな役割を果たしています。

サプライチェーン戦略をビジネス戦略と連携させるためには、「顧客サービス」「販売チャネル」「バリューシステム」
「オペレーションモデル」「資産配置」という観点で設計を行い、目標を定めます。

顧客サービスでは、デリバリーのスピード、正確さ、柔軟性に関する目標を設定します。販売チャネルでは、顧客が自社の
製品やサービスをどのように発注し、どこでどのように受け取るのかを設計します。バリューシステムではサプライチェーン
全体の中で自社が担当する役割、パートナー企業が担当する役割を明確に設定します。オペレーションモデルでは、顧客
サービスの提供と、運転資本やコスト面の目標達成を両立するための、計画、調達、生産、出荷方法などを設計します。
資産配置では、自社のリソース(お金、人)をサプライチェーン全体の中で、どこにどれだけ割り当てるかを明確に定めます。

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経営者はこれらの要素について決断し、設計、計画、目標を作り上げていくことになります。この時、これらの要素どれか
1つだけに着目して、他の要素は検討しない場合があります。しかし、これには少々問題があります。例えばコストは抑え
ることが出来たが、その結果顧客サービスを満たせなくなった、などという事態が起こりうるからです。

サプライチェーンから効果性の高い戦略的メリットを引き出すためには、各要素を全体の一部として扱うことが重要です。
次回は第二原則について考察します。お楽しみに。

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参考文献>
・「月間ロジスティクス・ビジネス 2020年8月号」ライノス・パブリケーションズ
・ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」英治出版
・マーチン・クリストファー著「ロジスティクス・マネジメント戦略」ピアソン・エデュケーション