経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第四回|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第四回

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 画像素材: photobyphotoboy /PIXTA

<目次>

1.SCM改革成功の秘訣は”組織変容のリーダーシップ”

2.「事例4:SCMでコミュニケーション向上を成功させた食品トレー容器メーカー」

3.SCM改革でコミュニケーション向上を図る

4.経営者が抱く、SCMへの幻想

 


1.SCM改革成功の秘訣は”組織変容のリーダーシップ”

 

米国の経営コンサルタントであるトム・ピーターズが、その著書「エクセレントカンパニー」の中で、リーダーシップ
について以下のように述べています。

「リーダーシップとは、会社の中で物事が横道にそれたときに姿を現し、うまくいっているときには姿を隠して
 いるものである。」

リーダーの仕事とは、組織を作り上げることであり、人と技術を上手く活用して、革新的で、永続的な価値を作り上
げることです。そのためには、人の話を注意深く聴き、励ましの言葉を頻繁にかけてやり、その言葉を信頼できる行動
で裏づけてあげることが大切です。

組織変容のリーダーシップとは、価値観を高め、つぎにそれを守りとおす者です。ここで少し、”価値観”について考え
てみたいと思います。価値観を高めるとよく言いますが、価値観とはいったいどんなものでしょうか?

ある分野で「いちばんになる」ことかもしれません。マクドナルドのレイ・クロックのように「ハンバーガーをはさむ
あの丸いパンに美を感じる」ことかもしれません。IBMのワトソンのように「個々人を尊重する」ことなのかもしれま
せん。アマゾンのベゾスのように「顧客至上主義」もそれに含むに十分でしょう。

こうした考えを信じ、実践する企業では、常に「変容」が生まれているのです。

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今回は、変容のリーダーシップを発揮し、SCM改革を成功させた食品トレー容器を製造するF社の事例をご紹介します。
「営業」と「工場」を一枚岩にしたSCMの威力をこの短いストーリーから感じ取って頂ければ幸いです。


2.「事例4:SCMでコミュニケーション向上を成功させた食品トレー容器メーカー」

 

F社は食品トレー容器を製造する会社です。F社の強みは、市場の変化と顧客ニーズを的確に捉え、高い機能性とデザイン
性を持った商品開発力です。コンビニエンスストアの登場で、一気に市場を拡大し、会社の売上も急成長しました。

F社では、デザイン性を重視するため、材料工場できれいに印刷し、最終製品工場で納入形態に加工して出荷していました。
このため生産のリードタイムは長くなりますが、製品の美しさやデザイン性で勝負をしていました。

F社は自社が保有する古いシステムが、急成長を支えられなくなったため、当時流行していた海外のSCMパッケージを情報
システム主導で導入することにしました。ところが導入したシステムは旧システム以上に使い難いものでした。

海外製のパッケージ製品ということもあり、日本の商習慣に関する細かい対応が難しく、カスタマイズも簡単には出来ない
ため、稼働を最優先させた結果、現場に全くそぐわないシステムとなってしまったのです。

受注や生産指示を入力するにも、入力項目が多く、沢山の画面を開かなければならないため、営業が入力を嫌って正確な
データがインプットされませんでした。工場側への生産指示はメールやFAXになり、担当者間の都度調整が常態化し、
導入前よりも状態が悪化してしまったのです。工場側も営業に対して、電話やメールでやり取りを行うため、製品がいつ
完成するかも分かりません。

そして、悪いことは続くものです。受注の大半を占めていたコンビニエンスストアも、製品のデザイン性よりもスピーディ
な納品と価格をより重視するようになり、F社のリードタイムがネックとなっていきました。また顧客企業から納期確認
が入っても、電話やメール、FAXのバケツリレーで正確な回答をするこが出来ずに、顧客がストレスを抱えるようになり、
徐々に競合に市場を奪われていったのです。

そのような状態の中、社内では営業サイドと工場サイドで責任のなすり合いになり、全体会議では怒号が飛び交うように
なっていました。


3.SCM改革でコミュニケーション向上を図る

 

このような危機的状況を早急に打開すべく、F社社長は解決策を模索していました。何よりもまず、営業と工場のコミュニ
ケーションを向上させることが大切だと考えました。そもそも、営業サイドが把握している顧客側の需要情報と、工場サイ
ドが把握している供給情報という、サプライチェーンの基本となる情報が全く共有されていないことが問題だと気付きまし
た。

誰も状況が分からないので、都度調整が発生し、結果的に声の大きい担当者の意見が通っていました。会社として顧客戦略
や製品戦略は、現場のオペレーションと全く関連性がなくなり、その場しのぎの緊急対応の連続で高コスト化し、過剰在庫、
欠品、納期遅延により現場は疲弊していました。

まず何よりも、新しく導入したシステムに正確なデータを入力してもらわなければ何も始まりません。ただ「入力しろ!」
と声を荒げて指示しても、効果は期待出来ません。何故、入力する必要があるのか、何故システムを刷新する必要があるの
か、自社の価値観と照らし合わせて現場に繰り返し伝えることから始めました。

「高品質な製品をどこよりも早く、顧客が必要としている時に確実にお届けする」という価値観です。

そして、システムの入力を極力簡素化し、正確に確実にデータ入力を行うことと、その価値観を関連付けするようにしたの
です。現場の意見に耳を傾け、改善し、実行しました。

続いて、単純な需要と供給のつながりが見える「見える化」のためのサブシステムを導入しました。材料と製品の在庫を管理
するシステムです。材料と製品の出荷実績ベースで需要を把握し、安全在庫や必要量を算出し、営業と工場でこのデータを
共有しました。在庫管理システムにより在庫をリアルタイムに管理し、ここに販売計画、受注、生産指示数を関連付けさせ
て、工場サイドはこのデータをもとに生産計画を立てるようにしたのです。

需要情報と供給情報が共通のデータで見えるようになったため、全体会議ではこの情報をもとに予実管理が行えるように
なりました。営業から工場まで、販売から材料までつながった情報連鎖が構築されたことによって、会社に信頼性の高い
サプライチェーンが構築された瞬間でした。

これによって、営業と工場のコミュニケーションの質が劇的に向上し、互いの責任のなすり合いから、データを活用した
分析と改善、実行が実践されていったのです。納期は正確に回答できるようになり、リードタイムも短縮され、コスト競争力
も向上し、F社に受注が戻り始めたのです。

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4.経営者が抱く、SCMへの幻想

 

長い間、SCMには経営者が抱く、いくつかの幻想がありました。

100%に近い需要予測により、完璧なまでの適正在庫を実現し、市場の需要に対して、過不足なく商品を提供するとい
うものです。しかし、現実的ではないかもしれないこうした高い目標を”価値観”に昇華させ、社員に積極的な関心(また
は刺激)を与えることが、リーダーの役割になります。幻想で終わらせるのではなく、健全な刺激を与える仕組みを構築
するのです。抑制と管理がのさばり、駆け引きのリーダーシップが幅を利かせている組織の中では変容は起こりません。

人が一介の作業者としてではなく、一人の人間として組織あるいは組織のやり方に愛着を抱くとき、かならずその組織が
行う仕掛けそれ自体が尊重されるようになるでしょう。

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参考文献>
・トム・ピーターズ&ロバート・ウォータマン共著「エクセレント・カンパニー」英治出版
・ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」英治出版
・石川和幸著「SCMの基本」日本実業出版社
・マーチン・クリストファー著「ロジスティクス・マネジメント戦略」ピアソン・エデュケーション