経営者のための物流DX実践ガイド⑪ ~戦略編~|在庫管理システムならカスタマイズに強い【インターストック】

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経営者のための物流DX実践ガイド⑪ ~戦略編~

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 画像素材: metamorworks/PIXTA

<目次>

1.インドのデジタルを超えた物流システム

2.複雑な社会で生まれたシンプル・イズ・ベスト

3.DXとは、技術に関するものではない

 


1.インドのデジタルを超えた物流システム

 

インド西部の大都市ムンバイでは、約5000人の配達人が、家庭で調理されたお弁当を各家庭を回って集めて、家族の勤務先へお弁当を1個ずつ配達するサービスが存在します。彼らのことを、「ダッバーワーラー」と呼びます。インドは宗教の違いなどから、人によって食べられるものが異なるため、家庭で作られたお弁当を食べる人が多いのです。しかし、通勤ラッシュでお弁当を持っていくのは大変ですし、奥さんも朝早くにお弁当を作るのが大変なので、こうした独自のサービスが生まれました。

ダッバーワーラーは1日13万個以上のお弁当を運ぶのですが、ITを一切使わずに高い品質の配達を実現しているそうです。そのエラー率(誤配率)はなんと1600万回に1回。誤出荷率は驚異の0.00034%以下だというから驚きですね。当然、顧客からのクレームはほぼゼロ。広告や宣伝一切なしで年5~10%成長している、超優良企業なのです。

ダッバーワーラー達は読み書きが出来ない人が多く、携帯電話も使わずにほとんど自己管理で1個当たり6回以上中継して各々の目的地に配達し、さらにはそれらを午後に回収して各家庭に空になった弁当箱を返すというのです。日本の宅配便システムも世界では有名ですが、そこはかなりのITがサービスを支えています。

このサービスの歴史は約100年と長く、交通網が整備されていないインドで人の手だけで行われるアナログな物流が、これだけの実績を上げているというのは目を見張るべき事実ではないでしょうか?まさにDXに右往左往して、デジタルにばかり目が向いてしまっている我々に、ビジネスや物流の本質が何たるかを学ばさせてくれます。

では一体何がこの驚異的なサービスを支えているのでしょうか?ハーバード大学などが現地に出向き調査をしたりもされているようですが、他企業が完璧に再現できるようなロジックや方法はまだ見つかっていないようです。インドは神秘的な国なので、何か我々に理解できないような力でも働いているのでしょうか?とはいえ、筆者なりにダッバーワーラーを調べてみて、私たちのビジネスにも参考になりそうな点をまとめてみましたので、少し整理してご紹介します。


2.複雑な社会で生まれたシンプル・イズ・ベスト

 

インド社会は、宗教およびカーストといったアイデンティティが人々の生活やビジネスにきわめて重大な影響を及ぼしています。宗教やカーストによる境界が複雑な歴史的経緯を経て複雑な社会を形作っています。その複雑さはそうした境界が一切ない日本人には到底理解できないものです。また、物流を支える交通インフラ情勢も非常に複雑です。有料の高速道路ですら舗装は十分ではなく、交通渋滞も日本の比ではありません。通勤時のラッシュも朝8時の山手線のラッシュなんて到底太刀打できないレベルです(下写真)。

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このような複雑な社会で生まれたダッバーワーラーというサービスの仕組みは、シンプルかつ精緻なオペレーションシステムです。このシステムで一番ビックリしたのは、「完全なペーパーレス」だということ。1枚の紙も発行せずにオペレーションされているというのです。なぜなら、ダッバーワーラーたちは、文字を読める人の方が少ないからです。弁当箱の上に色分けされた文字や記号を書くことで配達ルート、配達先がわかるようになっています(下写真)。

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他にもこのサービスにはいくつかのシンプルさが見てとれます。

1.少ないルール
2.平等な報酬
3.シンプルな組織
4.明確なビジョン

彼らが守らなければならないルールは非常に少なく、また報酬も皆平等です。組織構造もシンプルです。5000人いる配達人を監督する
マネージャーが30人ほど、経営層が10人ちょっとの3階層です。みな同じ地域の出身者で構成され仲間意識も高いようです。彼らのビ
ジョンは、「親しい人が調理した昼食を配達することで、顧客に健康的な食生活を提供する」というもの。ダッバーワーラーの配達人は
きっと、自分たちの仕事に誇りと使命感を持って、日々ストレスの少ない環境で自らの役割を全うしているのではないでしょうか。


3.DXとは、技術に関するものではない

 

物流のやり方、考え方、在り方が驚くべきスピードで変わっています。デジタル技術の進化と新たな破壊的な脅威によって、従来の物流業務の進め方に変革が起きています。筆者は、国内企業の物流デジタル化の支援をさせて頂いていますが、最近は似たような切迫した質問を頂くことが増えています。「いったいどうやってデジタルに適応していったらいいのでしょうか?」という質問です。DXが企業の喫緊の課題となってから、”IT化”よりも”デジタル化”と言われることが多くなりました。IT化全盛の時代は、「いったいどうやってITに適応していったらいいのか?」といった質問はあまり聞いたことがありません。そこはやはり、DX以前はITが企業の仕事を効率化するためのツールであったのに対して、DXで用いられる”デジタル化”は企業の古い戦略をひっくり返す破壊力があると多くの人が認識し始めたからではないでしょうか。

このような認識は今回のコロナ過で一気に加速したと言えます。本来はもう少しゆっくりとやってくる予定だったデジタル化が、急にフルアクセルでやってきたようなイメージでしょうか。とりわけアナログによる現場力でビジネスをやり抜いてきた物流は、この変化に戸惑いを感じています。従来の基本的な規則や前提が崩れてしまったからです。わずか数年でAmazonが全国を網羅する宅配のネットワークを構築してしまいました。ほんの数年前にだれがこんなことを予測したでしょうか?膨大な数の拠点をネットワークしてはじめて成り立つ宅配というビジネスモデルは、長い間佐川やヤマトにもう誰も太刀打ちできないと考えられてきました。筆者が昔読んだ物流の専門家の方が書いた本にもそのように書かれていました。しかし、Amazonはそれをわずか数年でやり遂げてしまったのです。その圧倒的なスピードは誰もが脅威を感じているのではないでしょうか。

冒頭の「どうやってデジタルに適応していくのか?」という問いに対して、正直なところ現時点で筆者も明確な回答を持ち得ていません。ただこの質問に対する答えを追求する中で、2つ皆さんと共有したい気付きを得ました。1つは、「デジタルに上手く適応して繁栄する企業と、それができずに衰退していく企業の二極化が進む」ことは明らかだということです。全ての業界がそうだとは言いませんが、少なくとも物流に限っては間違いないと思います。そしてもう一つは、デジタルに上手く適応して繁栄する企業は、「DXとは技術に関するものではなく、新しい戦略思考そのものである」ということに気付いた企業だということです。

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