「総合物流施策大綱2021-2025」から今後の物流施策の方向性を探る -第二回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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「総合物流施策大綱2021-2025」から今後の物流施策の方向性を探る -第二回-

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 画像素材:MicroOne/PIXTA

<目次>

1.「簡素で滑らかな物流」 -(3)物流標準化の取組の加速-

2.「簡素で滑らかな物流」 -(4)物流・商流データ基盤の構築等-

 


1.「簡素で滑らかな物流」 -(3)物流標準化の取組の加速-

 

「簡素で滑らかな物流」の実現に向けてモノ、データ、業務プロセス等の物流を構成する各種要素の標準化推進は欠かせません。
物流現場の作業がシンプルに自動化し省人化されれば、不足する労働力の中でも高度なサービスを維持することが可能になります。

物流の標準化については、もう何年も前からその必要性が叫ばれていますが、関連する全てのステークスホルダーの協力が必要なため、
なかなか進んでいないのが実情です。荷姿やパレット等を標準化することで積載効率を高める動きもありますが、実際にはトラックの積載効率は右肩下がりで直近の実績では40%を下回っています(下グラフ参照)。

■トラックの積載効率の推移

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(出典:「物流をとりまく状況と物流標準化の重要性」 国土交通省)

これはやはりEC需要の急増による影響が大きいでしょう。ECの荷物は従来の店舗やセンター向け物流とは違ってどうしても小口化になり、荷姿もバラバラのため積載効率が落ちてしまいます。そのため標準化による物流効率化が進むどころかむしろ悪化の一途をたどっており、この30年間下がり続けているのです。この積載効率の状況だけを見ても、物流標準化はこれまでのやり方の延長線上では進まないことを我々は認識する必要があります。物流標準化は、まったく新しい「あり方」へシフトする必要があり、そのためには関連する全てのステークスホルダーに「柔軟性」が求められるのです。

こうした背景もあり、アスクル、ユニクロ、ニトリなどの大企業は早々に「物流の完全自動化」に舵を切っており、AI、ロボティクス、テクノロジーに積極的に投資し、省人化・自動化を進めています。今、自動化はトレンドとなり、自動化に取り組む企業も急増していますが、最新の機器とシステムを取り入れて結構失敗している企業も少なくないようです。失敗と判断された大きな要因は、部分最適は実現できても、その川上、川下とトータルで見た全体最適に繋がっていないというものが多いようです。

標準化を進めるためには、物流に関わる全てのステークホルダーが、このような現状に危機意識を持ち、モノ、データ、輸配送条件などが標準化されていないことによる現場負担や不効率を認識し、柔軟性を持って改善に取り組む必要があります。また「部分最適」<「全体最適」、「短期的」<「長期的」な視点が重要な点も忘れてはなりません。

本大綱では、物流標準化を真に効率的で持続可能な物流への転換のための社会全体の課題として捉え、その必要性を一般消費者含め広く、強く発信していく方針を示しています。

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(出典:『総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)概要』 国土交通省)


2.「簡素で滑らかな物流」 -(4)物流・商流データ基盤の構築等-

 

物流は、複数の部門、企業を機能的に繫げて業務を行なっています。たとえば営業部門から物流部門へと顧客情報を橋渡しし、物流部門が顧客毎のニーズに留意して物流を行うといったことが頻繁に行われます。また在庫情報についてもサプライヤー、工場、物流倉庫とそれぞれの機能で個別に管理され、その情報が必要に応じて橋渡しされます。つまり、物流は複数の異なる機能を情報で繋ぎ合わせることで成り立っているのです。そして、これらの情報の繋ぎ目が、物流に求められる機能の高度化によって近年ますます複雑化しており強固になるどころか、様々な箇所で「ほつれ」が出はじめているのです。

先日あるご支援先のお客様から伺った話で、「デペロッパー運賃」というのがありました。このデペロッパー運賃は大手運送会社が最近になって採用しており、荷主企業に対して、大型商業施設などラストワンマイル配送が困難な場所について、通常運賃とは別に運賃を上乗せ請求するというものです。

実質的な運賃値上げの一つではありますが、仕組みを詳しく伺うと、この情報のやりとりが実に不味いものでした。デペロッパー運賃は新たな商業施設が建設されたり、運送会社の勝手な都合によって適用施設が頻繁に変更されるのですが、この変更が事後報告だというのです。つまり荷主側で運送会社からの請求データを確認して、差異があるので「あれ、おかしいな?」ということで運送会社に問合せすると、「そこはデベロッパー運賃が発生する施設になりました」という知らせを受けるとのことです。またそのデータは運送会社からエクセルで施設名と住所が書かれた表を渡されるだけで、運送EDIのマスタデータとは何の関連付けもされていないのです。つまり、全て荷主側でアナログ照合が必要になるということです。物流の標準化、効率化を先導していく立場であるはずの大手運送会社群がこのような姿勢で、果たして国内の物流効率化は進展するのでしょうか。効率化や標準化とは真逆の取り組みを今頃になって始めているのです。

こうした課題を解決するには、各機能間の業務プロセスをモデル化し、ソフトの標準化としてのデータ連携の実現が不可欠となります。複雑化する物流のプロセスを管理し可視化するために、2018年に始まったSIPの「スマート物流サービス」プロジェクト。このプロジェクトでは、物流や商流データの基盤を構築し、今まで連携の進んでいなかった企業間での効率的な共同輸配送や異業種間物流のマッチングによる積載効率の向上、データ連携の不足によって生じていた非効率を解決する新たなサービスやアプリケーションの開発を行っており、この社会実装に向けた取り組みを推進していく方針です(下図)。

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(出典:内閣府主導のSIPスマート物流サービスの戦略について探る)

スマート物流サービスのようなデータ基盤の共有や接続を通じて、物流領域で発生するリアルデータが付加価値をもたらし、革新的な製品やサービスが生まれることが期待されます。今後はさらにデータやデジタル技術を駆使して、物流機能や情報の共有化が進むエコシステムが形成されていくことでしょう。

複数の商用車メーカーのトラック車両データを共通的な仕組みで連携させる物流分野における新しいサービス「物流MaaS」の推進もそうした取り組みの一つです。
経済産業省は今年7月、この物流MaaSの推進に向けた実証事業の事業者に、NEXT Logistics Japanなど7社を選定し、2020年度から進めている本取り組みを更に推進していく予定です。商用車のコネクテッド化やデジタル技術を活用し、運送事業者・商用車メーカー・荷主等が連携しながら物流効率化を進めていく協調領域でのユースケースを検討しています。2021年度も前年度の成果を生かしつつ、「トラックデータ連携の仕組み確立」「見える化・混載・自動化等による輸配送効率化」「電動商用車活用・エネルギーマネジメントの導入ユースケース等に係る検証」の3つの取組を推進しており、トラックデータ連携の仕組みを確立するとともに、荷台の空きスペース情報を可視化すること等による混載の取組を通じて、潜在的な共同輸配送ニーズの発掘・マッチングにつなげる方針です。

※物流MaaSについては、こちらの記事も参考下さい。
 「経営者のための物流DX実践ガイド⑧ ~物流MaaS編~」

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(出典:『総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)概要』 国土交通省)

データを企業間、異業種間で共有する際に極めて重要となるのがセキュリティの確保です。企業の信用情報や個人情報の秘匿性、信頼性が確実に保全され、安心して利活用できる基盤が無い限り、いくら「データ民主化」の必要性を説いても、協力してくれる企業は少ないでしょう。ブロックチェーン技術の活用が物流領域でも検討が進んでいますが、こうしたセキュリティ確保の基盤整備は国が積極的に支援を行い早急に行わなければなりません。

※『総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)』をダウンロード

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