「総合物流施策大綱2021-2025」から今後の物流施策の方向性を探る -第五回-|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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「総合物流施策大綱2021-2025」から今後の物流施策の方向性を探る -第五回-

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 画像素材:Rawpixel/PIXTA

<目次>

1.資本主義の終焉と物流の夜明け

2.総合物流施策大綱の計画と目標値

3.おわりに

 


1.資本主義の終焉と物流の夜明け

 

18世紀の産業革命によってヨーロッパを中心に商品経済が栄え始め、それまで長く続いた封建主義に代わって、資本主義が生まれました。それから数百年におよぶ発展の中で、資本主義はその姿を大きく変えてきましたが、その経済活動の成長原理は効率化と採算を重視するというものでした。効率化と採算こそが最重要視されてきたのです。しかし、この度の新型コロナウイルスによるパンデミックによってこの常識が覆される事態になりました。

自動車産業などを中心に、効率を最重視したサプライチェーンでは、原材料供給が遮断され製造ラインが完全にストップしてしまいました。昨今急増する災害に備えたBCP対策が企業の最重要課題として認知され始めて、様々な取り組みが実施されている中で今回のパンデミックはまったく予想外の出来事であり、効率と採算を最重視した企業成長と安定のシナリオは誤りであったことを私たちは学ぶことになったのです。効率と採算を最重視してグローバルに展開されたサプライチェーンがいかに脆いものであったのか。

近年、「資本主義の終焉」が様々な場所で叫ばれるようになりました。安い労働力を発展途上国に求めて成長してきた資本主義もアフリカが最後のフロンティアと呼ばれるようになり、アフリカの開発が終わったタイミングで資本主義の成長は止まると言われています。

アフターコロナの世界では、従来とは全く異なる新しい経済の風景が私たちの目の前に広がる可能性があります。物流においても、規模の拡大と集中において効率化を図る戦略が見直される時代に突入するでしょう。経済を支える重要なインフラとして、エッセンシャルワーカーとして広く認知された物流は、今後地方の中小物流企業が「新しい物流」を支えることになります。リモート化、自動化、省力化、デジタル化、情報社会の中での産業転換を、物流の転換期ととらえ、変革をいとわずに挑戦する企業が生き残ることができるのです。


2.総合物流施策大綱の計画と目標値

 

さて、ここまで全4回に渡って「総合物流施策大綱2021-2025」の内容について見てきました。本大綱で示された今後の物流の施策については、物流に関わる全てのステークスホルダーによる継続的な協働と連携によって初めて目的が達成されます。その目的達成に向けて、本大綱では、掲げた様々な取り組みについて定量的に把握するための指標(KPI)を設定しています。この指標を各ステークホルダーが定期的にチェックを行いながら対策を進めてポストコロナを見据えた対策を練りましょう。各目標値の計画期間は2025年までとされています。

それでは、各指標(KPI)について、簡単に解説をします。

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物流業務の自動化、デジタル化に向けた取り組みに着手している物流事業者の割合が100%になっている点は興味深いですね。どのようにしてこの指標を図るのか詳細な手段については筆者もまだ調査不足ですが、いずれにしても、国のデジタル化に向けた強いメッセージが込められていますね。

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トラックの積載効率が近年下降傾向にあることはこれまでの回で説明した通りですが、2025年までに50%を目指すというのはこれまた強気な目標値ですね。

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ここでは物流事業者におけるBCP策定の割合が100%が目標値として設定されています。BCP対策としての拠点分散はもちろんですが、物流事業者を中心とした地方創生の可能性も筆者は同時に探っていかなければならないと考えています。


3.おわりに

 

前大綱では、「強い物流」の構築が大きな目標として掲げられていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響による社会の劇的な変化により、既存の慣習や様式にとらわれずに施策を進める環境が醸成されつつあることから、「強い」という概念に限らない、「簡素で滑らかな物流」、「担い手にやさしい物流」、「強くてしなやかな物流」の実現に向けた施策を推進していく方向性が示されています。

この認識は、直接物流に携わる企業だけではなく、メーカーや荷主など物流に関わる全てのステークスホルダーで共有されることが重要です。加えてこれまで個社最適や差別化による競争戦略が中心であった物流を、全社最適、共創による協調戦略に変えていく必要性があることは言うまでもありません。

新大綱では、いかなる状況においても物流を維持・発展させるために必要な改革要請が記されており、全項目にわたり「機械化・デジタル化」による業務プロセスの合理化・効率化がうたわれています。しかし、これまで物流業界においては、業務の標準化やデジタル化はなかなか進まない状況にありました。その原因として属人化している業務が多いことや、ドライバーの長時間待機が多く発生していることなど従来の商慣行が挙げられていました。しかし、コロナ禍によって現場が切迫し、関係者の危機感が増したこともあり、現在ではこうした取り組みが急速に進んでいます。新大綱では、具体的な取り組みとして、デジタル化による省人化、倉庫など物流施設へのロボット導入、輸送車両の隊列走行・自動運転の実現に向けた取り組みを推進しています。しかし、このような投資は中小企業においては大きな負担となります。そこで国は、「物流総合効率化法に基づく税制特例物や流総合効率化法に基づく税制特例」や「IT導入補助金」等の活用を推進しています。

※IT導入補助金について詳しくはこちら

2025年度に向けて新大綱に従い物流事業者が対応しなければならない項目は多岐に渡ります。国全体で、物流業務の合理化・効率化が強く求められている今が、物流の構造改革や生産性向上に向けた取り組みを抜本的に改革し、デジタル化を推進する大きなチャンスとなることは間違いありません。しかし、冒頭で紹介した今回のパンデミックの教訓を忘れてはならない点も最後に付け加えておきたいと思います。

※『総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度)』をダウンロード

 

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