デジタル技術が生み出すスピード経営 ~効果性の高いシステム~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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デジタル技術が生み出すスピード経営 ~効果性の高いシステム~

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 画像素材:しろくま工作室 /PIXTA

<目次>

1.ヤマト成功に学ぶ、効率追求から効果追及へ

2.統一化されたIDを持つことが第一歩

3.ゼロリスク信仰の弊害


1.ヤマト成功に学ぶ、効率追求から効果追及へ

 

これまでの日本経済は、効率優先の経営によって繁栄を遂げてきました。規模の利益を追求するために設備投資を行い、分業組織により大量生産、大量販売で利益を享受し、成熟社会を招来させました。

効率を優先するとどうしても、企業側の都合に良いことを優先した仕組み作りとなります。しかし、”つながり”が重要になるこれからのデジタル化社会においては、効率優先のシステム化から効果優先のシステム化、あるいは経営への転換が必要になります。ここで”効率”と”効果”の概念を明確にしておきます。売上なり利益を所与として、これをできるだけ少ないコストで達成することを効率追求、経営資源を所与として、できるだけ与えられたコストで大きな売上なり利益を得ることを効果追求といいます。

つまり、効率追求はコストの削減によって達成され、効果追求はROI向上によって達成されるということです。

ROIを高める効果性の高い経営システムは、高度なロジスティクスに対応した物流システムによって達成可能です。宅配便市場の歴史でそれを確認することができます。現在の宅配便市場は、ヤマト、佐川、日本郵便の寡占化がすすんでいます。昭和50年代に70%以上もあった郵便小包のシェアはすっかりヤマト、佐川に奪われてしまいました。郵政やJRの国家権力による独占事業であった小荷物の宅配市場は、”より生産性の高いシステム”を構築した企業に駆逐されてしまいました。

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(出典:2021年度の各社の公開データを元に筆者作成)

ここで、“より生産性の高いシステム”と述べましたが、この生産性の高い、とは効率優先のシステム化ではなく、効果優先のシステム化によって達成されたことに注目していただきたいのです。かつての国鉄は、大きな貨車で大量に運ぶことで料金を安くすることができたかもしれません。しかし、現在はこのような大量輸送システムは、誰も使わなくなってしまいました。顧客が欲しい時に、欲しいモノを、欲しい場所に届ける時代になってしまったからです。このようなニーズに郵便小包もJRの小荷物も、まったく応えることができませんでした。

大量に運ぶというのは、企業側にとっては都合の良い効率優先の合理的な手段です。「クロネコヤマトの宅急便」で一躍市場を独占したヤマト運輸は、この顧客ニーズを満たすことのできる、画期的な多品種・少量・多頻度の物流システムを構築しました。これは企業側の手間が増え、物流システムも複雑になることから、決して合理的で効率的な方法ではありませんでした。ですから、当時は誰も上手くいくはずがないと考えていたのです。しかし、顧客からお預かりした荷物を、数百円くらいの料金で翌日には日本全国に届けることのできる、きわめて顧客にとって都合の良いシステムは、たちまち顧客に評価され、結果として利用者が増えることによって、生産性の高い、効果性の高いシステムとなったのです。


2.統一化されたIDを持つことが第一歩

 

多くの企業では、各部署が小さなデジタル化のつぎはぎを行っており、新しいシステムを導入する際に、こうしたレガシーシステムが邪魔をする事態に陥っています。複雑怪奇に絡み合ったシステムを新しいシステムと結合させるには、莫大な人月工数がかかる事態に直面しており、DXを進めようにも思うように進んでいないのです。また、こうしたシステムは非効率であっても、「動いているから触らない方がよい」、「変えるのは面倒だから触らない」といった「触らぬ神に祟りなし」の状態で大切に運用されてきました。安定化を求めるあまり、硬直化したシステムとなってしまいました。大きくて歴史のある企業ほど、この問題を根本的に解決するのは大変です。平時の規則通り決まったルーチンを処理することには長けているけれども、少しでも違ったことをしようとした途端に問題が起こります。一カ所変えるだけなのに、関連する他のシステムも変えなければならず、無駄な時間とコストだけが消費されてしまいます。

デジタル化による対応スピードが企業の生死を分ける今の時代において、こうしたレバシーシステムが足かせになっているようでは危険です。現場からすれば、急いで対応しようと思っても、「なぜシステムはそれができないのか」という不満の連続です。

ではこのような複雑な問題を解消するために、どのようなアクションをとるべきでしょうか。すべてのプロセスを見直しして、まずは問題点の棚卸から始めます。多くの場合そこで分かるのが、統一化されたIDが不足しているという点です。例えば、サービス業であれば、サービス対象である顧客IDがシステム間で統一されていないといったことや、商品IDが統一されていないといったことです。統一化されたIDを持つということは柔軟性や俊敏性につながり、効果性の高いシステムを構築する上で重要な視点となります。

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3.ゼロリスク信仰の弊害

 

デジタル技術の進歩は早いので、目的は同じであっても、その時に最適なやり方というのはどんどん変わっていきます。効果性の高いシステムの理想形を言うなれば、目的とやり方を切り離して、目的さえ達成できれば、多様なやり方を選択できるようなシステムとなります。このようなシステム統合や、改変の場合、ゼロリスクで物事を考えるということが日本人は苦手です。「リスクはゼロであるべきだ」、「リスクが少しでもあるならば見直そう」というゼロリスク信仰の害はあきらかであり、実用性のあるリスク管理はリスクをゼロにするものではありません。リスクゼロを目指した途端に費用も時間も膨大にかかってしまい、何事も進まなくなってしまいます。ある程度のリスクを覚悟で、問題が起こったあとで対応するという考え方に発想を切り替えて、システムの構築を進めることも大切です。(金融や医療のシステムなどは別です)

システムを設計するとき、ゼロリスクの想いが強すぎるのが日本のシステム開発の問題だと思います。システムを設計するとき、ゼロリスクを考えすぎると、コストや手間でシステムそのものがなりたたなくなります。目的はゼロリスクではないはずなのに、いつのまにかそれが至上命題のようになってしまうのです。DXを進めるのであれば、過度なゼロリスクの罠にはまらないようにしましょう。ゼロリスクを求めることが、日本企業のDXの一番の弊害になるのだと思います。コスト削減による効率性の追求は、リスクを最小限にしつつ、自社の収益性を高めることができるため、日本企業にとっては非常に満足のいく方法でした。今後は、リスクを冒してでも、効果性を追求して最終的に生産性をあげるような一見回り道にも見えるシステム開発も重要になってくるのです。

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