“今すぐ実務に役立つ” 物流センター運営の教科書 ~リプレイスの罠~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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"今すぐ実務に役立つ" 物流センター運営の教科書 ~リプレイスの罠~

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 画像素材:Graphs/PIXTA

<目次>

1.レガシーシステム、リプレイスの罠

2.レガシーシステムの延命処置は最悪手

3.不要な機能をそぎ落としシンプルに設計する


1.レガシーシステム、リプレイスの罠

 

大手企業の資本で運営される大規模な物流センターは別として、多くの物流センターでは倉庫管理システム(WMS)に多額の投資をすることが難しいのが実状です。AS400などの何十年も前の古い基幹システムを継ぎはぎでカスタマイズし、延命処置を施しながらなんとか運用している現場を私も多く見てきました。私の会社にも、第二次WMSブームにWMSを導入した企業からシステムリプレイスのご相談を頂くことが増えています。

現場を視察し、エンジニアを交えた数回のディスカッションの後に、システム提案書と御見積をご提出するのですが、予算が合わずに頓挫するケースが少なくありません。何十年も運用されているレガシーシステムは、その運用過程で必要になった機能が都度カスタマイズによって継ぎはぎされ、システム全体としては大規模なものとなっています。それを一気にリプレイスするとなると、数千万円規模になります。

結局予算が合わずに導入に踏み切れないまま、レガシーシステムの保守が切れる直前になって大慌てでそのまま使えるパッケージシステムに飛びつくことになります。しかし、今ある業務、今ある機能とパッケージシステムの機能のギャップが大きくてこれだと運用できないということになり、プロジェクトは暗礁に乗り上げるのです。

あなたの物流センターも、長年利用し続けてきたレガシーシステムの保守期限が迫る中、システムのリプレイス予算を捻出できずに頭を抱えていませんか?


2.レガシーシステムの延命処置は最悪手

 

さて、ではこのような場合、どのように手を打つ必要があるのでしょうか。無理をして銀行融資を取り付けして、なんとか予算を捻出しますか?
それとも既存ベンダーに頭を下げて、再度レガシーシステムの延命処置を施しますか?なんとか予算を捻出する方はまだ良いですが、延命処置はただ問題を先延ばしにしているだけで何の解決にもなっていません。むしろレガシーシステムを利用し続けることによる経営のマイナス面が時間とともに増幅しますので、余程の理由が無い限りはこのような選択はしないようにしましょう。

このような保守期限の迫ったレガシーシステムのリプレイスプロジェクトの一番の問題はなんだと思われますか?それは、成長戦略という錦の御旗がないということです。現状で運用上大きな問題も出ていないレガシーシステムの保守が切れるからという理由だけで、はたして企業が数千万円をポンと投資できるでしょうか?慌ててリプレイスプロジェクトを立ち上げては見たものの、ベンダーとの打ち合わせが進めば進むほど、既存のレガシーシステムの膨大な機能が積み上げされたカスタマイズタスクを前に、ユーザーもベンダーも途方に暮れるのです。一体これほどのシステムを再構築するのにどれだけの時間とコストがかかるのか、恐れと不安を感じるようになってきます。

そのような場合でも、自社が成長するための戦略の柱として、今回のシステム導入プロジェクトが計画されていれば、恐れや不安と戦いながらも前に進むことができるはずです。しかし、成長戦略という錦の御旗がないプロジェクトであれば、「もう少し先でもいいんじゃないか」とあっさりと楽な方に逃げてしまうのです。

システム導入プロジェクトは上流の水が濁っていれば、下流の水はもっと濁ります。こうしたレガシーシステムのリプレイス案件の多くは、一番最初の”動機付け”に失敗しているので、上手くいかないのです。ベンダー企業側としては、ユーザー企業がこのように安易な選択をしてしまわないように、しっかりとサポートしてあげることが大切です。特に物流センターでは、情報システムに詳しい担当者は少ないので、ベンダー企業の言いなりになってしまっている場合が多いものです。「来年で御社のWMSのサポートが出来なくなります」と言われた途端、慌ててしまって冷静な判断ができなくなります。そのままを経営トップに伝えて、経営トップもWMSが使えなくなると、物流センターの存続が危ぶまれるため、すぐに手を打つようにとその担当者に指示をします。このように最初にボタンをかけ違えて、しっかりとした中長期の成長戦略がないまま、高額なWMSのリプレイスの見積もりを前にすっかりやる気を失ってしまうのです。

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3.不要な機能をそぎ落としシンプルに設計する

 

WMSをリプレイスする際には、まず自社の成長戦略を描き、WMSがその戦略上どのような役割を持つのかを明確にした上でRFPを取りまとめします。
ここで重要になるのは、フルスクラッチとパッケージとどちらで検討を進めるのかという問題です。フルスクラッチであれば、既存のWMSの機能をそのまま実装することも可能です。しかし、ゼロから設計して開発を行うため、時間とコストは膨大になります。パッケージシステムを利用する場合、時間とコストは大幅に圧縮できますが、問題は運用と機能です。現状の運用と機能を新しいパッケージシステムでどこまでカバーできるのかというのが最大のポイントになります。私はこれをFIT率と呼んでいますが、このFIT率が60%以下であれば、たとえパッケージシステムであったとしても大幅なカスタマイズが必要になります。

ただし、これは現状の運用と機能をそのまま新しいWMSに求めた場合の話なので、次に重要なポイントは、どこまで現状の運用と機能を再現させる必要があるのかという検討です。実際、数十年前のレガシーシステムは沢山の帳票がドットプリンタから出力されます。最近のシステムであれば、簡単にデータをCSVのようなテキストファイルでやり取り、保存ができますが、昔は紙で保存する方法が一般的でした。このような帳票類は本当に必要かどうかを十分に精査する必要があるでしょう。

この時、実際に現場で運用に携わっている担当者にヒアリングすることも大切ですが、このような方に必要かどうかをヒアリングすると、かなりの確率で「必要」という回答が返ってきます。現場の方は基本的に現状の運用を変えたくないという意識が強いので、現場の方だけではなく、上司や他の部門の方にもヒアリングして、最終的にはベンダー側に決めてもらうくらいの覚悟があっても良いと思います。ベンダーは多くの似たような業種のシステム導入に携わっているので、他所の現場を沢山の経験として知っています。

長年自社の物流センターで経験を積んだ現場担当者は必要だと思っていても、他所の現場を知っている第三者(ベンダー)が見ると、「必要ない」といったことは沢山あります。このようにして、既存システムをそのままコピーしようとするのではなく、無駄なものをそぎ落として一度シンプルな設計にした後に、今後の成長戦略において重要な機能を付け足していくようなアプローチが良いでしょう。

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