成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~数値化で描く改革編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~数値化で描く改革編~

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 画像素材: Graphs /PIXTA(ピクスタ)

近年、製造業においても「物流DX」に取り組む企業が増えています。その主眼は、単なるデジタル化ではなく、「ものづくり物流の改革」にあります。しかし、その過程において、手段と目的の混同という落とし穴に陥りがちです。手段と目的の混同とは、デジタル技術そのものを目的と捉え、本来の目的である物流改革を置き去りにしてしまうことです。具体的には、特定の技術に固執したり、導入自体を目的にしてしまうケースなどです。

物流DXにおけるデジタル技術は、改革を加速させるための羅針盤であり、目的を達成するための手段に過ぎません。大切なのは、まず「何を」「何に」「どうやって変えるか」という改革の道筋を明確にすることです。その上で、それぞれの課題解決に最適な技術を選択し、導入していくことが重要です。

本稿では、「手段の目的化」を避け、物流DXを前に進めるための重要なポイントについて解説します。

2024年4月28日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

〜在庫を捉える視点がオーダーサイクルタイム(OCT)短縮化のカギ〜 (3)

<目次>

1.樋口一葉は数値化の母!?

2.数値で問題と理想のギャップの解像度を上げる

3.数値で語る、真の課題の本質

4.数値で語る、具体的な課題例


1.樋口一葉は数値化の母!?

五千円札の肖像画で親しみのある樋口一葉は、作品の中で巧みに数字を用いて、鮮明な情景を描き出し、登場人物の心情を深く掘り下げる効果を生み出していました。代表作である「たけくらべ」を数ページめくるだけで、

・「かたぶく軒端の十軒長屋二十軒長屋や、」
・「垢ぬけのせし三十あまりの年増、」
・「十五六の小癪なる酸漿を含んで、」
・「子供大将に頭の長とて歳も十六、」
・「歳は我れに三つ劣れど、」
・「同級の女生徒二十人に揃ひのごむ鞠を与へしは、」

など、実に多くの数字が目に飛び込んできます。これらの数字は単なる情報としてではなく、情景描写や人物描写に深みを与え、作品にリアリティを生み出す重要な要素として機能しています。

「十軒長屋二十軒長屋」という具体的な数字を用いることで、長屋の密集した様子と活気あふれる雰囲気を鮮やかに描き出しています。「三十あまりの年増」という数字で、年増の年齢と経験を感じさせ、その人物像をより立体的に表現しています。「十五六」という数字で、少女の初々しさと可愛らしさを、「十六」という数字で、少年の成長と大人への一歩を踏み出す様子を、「三つ劣れど」という数字で、少女たちの年齢差とその関係性を、「二十人」という数字で、女生徒たちの活気と楽しそうな様子を表現しています。

このように、樋口一葉は数字を効果的に用いて、作品に深みやリアリティを付与し、読者を作品の世界へと引き込んでいくのです。文章の中で数字は単なる情報としてではなく、情景描写や人物描写をより効果的にするために活用され、作品に深みやリアリティを生み出しています。樋口一葉は、その優れた筆致によって、数字を巧みに作品に織り込み、読者に鮮やかな情景と深い感動を与えているのです。
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2.数値で問題と理想のギャップの解像度を上げる

物流DXの本質は、単なるデジタル化ではなく、「何を」「何に」「どうやって変えるか」を明確にした革新にあります。従来のIT化との違いは、現状の延長線上ではなく、大きな変革を伴う点です。変革の道筋を描くためには、問題と理想のギャップを明確にすることが重要です。そのために有効なのが数値化です。数値化することで、客観的に把握し、具体的な解決策を導き出すことができます。製造業の格言にもあるように、「測定できないものは改善できない」のです。物流DXにおいても、数値化は改革成功の鍵となります。数字は情報以上の役割を果たすことがあります。「数字は口ほどに物を言う」のです。

樋口一葉が巧みに数値を用いて作品にリアリティを生み出したように、物流DXにおいても、数値は問題と理想のギャップの解像度を上げ、改革を成功に導くための重要な役割を果たします。


3.数値で語る、真の課題の本質

私たちは倉庫管理システム(WMS)の導入を支援していますが、ユーザー企業は何かしらの課題を抱えているからこそ導入を検討されます。しかし、その課題を具体的な数値を用いて説明できるお客様は稀です。多くの場合、「出荷作業の生産性が低いから高くしたい」「物流品質が低いから向上させたい」「在庫が多いから削減したい」といった具合に、定性的な表現で課題を捉えています。

定性的な課題認識は、確かに問題の出発点としては重要です。しかし、具体的な数値データに基づいて課題を明確にすることで、定性的な課題だけでは見えてこない真の解決策が見えるようになります。また数値データは、解決策の効果を測定・評価するための指標にもなります。また私が数値化の一番のメリットだと考えるのは、関係者全員の共通認識を形成できる点です。数値は客観的な情報であり、関係者全員が共通認識を持つことができます。これにより、チーム全体で課題解決に向けた取り組みを進めることが可能になります。WMSの導入においても、ベンダー側は安定稼働させればOKというようなところがあります。しかし、もともと物流に大きな課題を抱えてWMSを導入したユーザー企業は、期待してた効果が出ていないと不満を抱えることになります。これはどちらが悪いということではなく、お互いの目的を共通認識として形成できていなかったために起こる問題です。この問題はWMS導入に限らず他のシステム導入においても頻繁に発生するケースです。
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4.数値で語る、具体的な課題例

以下は、WMS導入支援において一般的に遭遇される課題と、それを具体的な数値データで表現した例です。これらの課題は、物流革新ではなく改善を目指すものであり、物流DXとは一線を画すものですが、分かりやすさを重視していますので、その点をご理解ください。
1.出荷作業の生産性

  現状: 平均作業時間1件あたり3分、1日500件の出荷作業を実施
  課題: 作業時間短縮による生産性向上
  目標: 平均作業時間1件あたり2分、1日600件の出荷作業を目指す

2.物流品質

  現状: 納品遅延率5%、誤出荷率2%
  課題: 納品遅延 and 誤出荷の削減による物流品質向上
  目標: 納品遅延率1%以下、誤出荷率0.5%以下を目指す

3.在庫管理

  現状: 平均在庫残高1億円、在庫回転率3ヶ月
  課題: 在庫削減によるコスト削減 and キャッシュフロー改善
  目標: 平均在庫残高5千万円、在庫回転率2ヶ月を目指す

数値で表現するには、実際の現場の数値データを分析、収集する必要があります。数値データを収集・分析するには、主に以下の方法があります。

1.既存システムのデータを集める

倉庫管理システム、生産管理システム、販売管理システム、会計システム、などの既存システムから必要なデータを抽出します。

2.現場のデータを集める

実際に倉庫や配送現場を観察し、インタビューを行い、データ収集を行います。また関係者に対してアンケートを行い、データ収集を行います。

以上、物流DXを進める上で、問題を定性的な表現だけでなく、具体的な数値データに基づいて説明することの重要性について解説しました。数値データは、問題の本質を
正確に把握し、効果的な解決策を導き出すための羅針盤となります。問題を数値データで明確化し、物流DXを成功に導かれることを願っています。

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