成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~稼ぐ力の再認識編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~稼ぐ力の再認識編~

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 画像素材:metamorworks/PIXTA(ピクスタ)

近年のマクロ経済動向を見てみると、日本の製造業にとって非常に重要な課題が浮かび上がってきます。2022年、日本の貿易収支は15.7兆円の赤字を記録しました。
これは1996年以来の過去最大の赤字となります。一方で、第1次所得収支は35.3兆円で、1985年以来で過去最大となりました。この状況は、「貿易立国・日本」の姿が変わりつつあることを示しています。具体的には、輸出よりも海外からの投資収益が経常収支を支える重要な要素となっているのです。

今回は、今からちょうど一年前に経産省が作成した「製造業を巡る現状と課題今後の政策の方向性」の資料を参考にしながら、2022年の経済データとそれに基づく洞察を加えつつ、日本の製造業の「稼ぐ力」について考察したいと思います。

 

2024年6月9日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

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<目次>

1.製造業の「稼ぐ力」の再認識

2.製造業の重要性を示すデータ

3.海外進出と直接投資(FDI)の必要性

4.海外市場の獲得と日本経済の持続可能性


1.製造業の「稼ぐ力」の再認識

日本の製造業は、近年、国内市場の成熟化・縮小と新興国市場の成長という二重の圧力に直面しています。この中で、日本企業は海外進出を右肩上がりで進め、特に製造業では海外での稼ぎを大幅に増やしています。営業利益に占める海外比率は1996年の30%から2016年には53%まで増加しており、国内市場だけではなく海外市場での競争力が重要になってきています。

「貿易立国」としての日本は、かつて安価な原材料を海外から輸入し、付加価値の高い製品を輸出することで成り立っていました。しかし、近年はそのモデルが揺らいでいます。
中堅製造業にとっては、国内での製造に加えて、海外での現地生産や投資による収益確保が求められる時代となっています。製造業の「稼ぐ力」を再評価し、国内外の市場での競争力を高めることが急務です。

また、海外での現地生産の増加が「空洞化」を招いているという指摘も以前からあります。この定説については、詳細な分析と適切な検証が必要だと思いますが、いずれにしても中堅企業としては、海外進出と国内生産のバランスを見極め、持続可能なビジネスモデルを構築することが重要な戦略であることは間違いありません。

2.製造業の重要性を示すデータ

日本の製造業は、国内の経済活動において極めて重要な役割を果たしています。以下のデータから、製造業の高い賃金水準と雇用規模の大きさが際立っていることがわかります。

1.製造業の平均賃金水準
製造業の平均賃金水準は全産業の中でも高く、特に輸送用機械、化学、生産用機械、情報通信機器、電気機械、一次金属の分野では賃金レベルが高いです。これらの分野は高い技術力と専門性を必要とするため、労働者に対する賃金も相応に高く設定されています。

2.雇用規模
製造業全体の雇用規模は非常に大きく、日本の産業全体における主要な雇用源となっています。特に、上記の賃金水準が高い分野においても雇用規模が大きく、経済全体に対する影響力が強いことが示されています。

3.GDPへの貢献度
各製造業分野はGDPに対しても大きく貢献しています。特に自動車など輸送用機械はGDPへの貢献度が高く、一人当たり賃金水準も高く、日本の輸出の重要な柱となっており、グローバル市場でも高い競争力を持っています。化学もGDPへの貢献が大きく、高付加価値製品の製造が進んでいます。化学産業は、技術革新と研究開発の投資が盛んで、未来の成長産業としても注目されています。また、情報通信機器は急速な技術進歩が求められる分野であり、GDPへの貢献度も今後は更に高まるでしょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に伴い、今後ますます重要性が増すことは間違いありません。
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(出典:経産省の「製造業を巡る現状と課題今後の政策の方向性」の資料を元に著者作成 ※円の大きさは雇用規模を表しています)


3.海外進出と直接投資(FDI)の必要性

日本の貿易依存度は相対的に低いものの、近年の輸出額は増加しています。この背景には、経済のグローバル化やデジタル化の進展が大きく関与しています。特に、現地への直接投資(FDI)は、以下の要素により重要性が増しています。

1. EPA(※)の進展による現地進出の立ち上げ
2. オペレーションコストの低減
3. スピーディな現地ニーズの把握
4. ビジネススピードの加速を実現するデジタル化

※EPAとは・・・EPA(Economic Partnership Agreement)は、経済連携協定のこと。二国間または複数国間で締結される協定で、貿易や投資を含む経済的な関係を促進するための枠組み。

これにより、日本企業は「国内で生産し海外へ輸出する」従来のモデルから「現地で生産し現地で販売する」新しいビジネスモデルへとシフトしています。製造業のグローバル化と現地生産が進む中、物流のデジタル化はますます重要な役割を果たします。全社的なデジタル化を進め、データドリブン型の意思決定を行うことで海外拠点との連携を強化し、グローバルな視点での供給網を最適化することで、リスクを分散させるのです。いまのところ、海外直接投資(FDI)の増加による空洞化を裏付ける定量的な分析はなく、むしろ、国内のGDPや雇用にプラスの影響を与えているエビデンスも示されています。

0609挿入画像2(出典:経産省の「製造業を巡る現状と課題今後の政策の方向性」の資料を元に著者作成)


4.海外市場の獲得と日本経済の持続可能性

今後、日本が海外市場を獲得し続けることは不可避です。そのためには、輸出と海外直接投資(FDI)の両方を積極的に伸ばす必要があります。特に、経常収支を支える所得収支が減少すると、円の信用が失われ、日本経済は極めて厳しい状況に追い込まれる恐れがあります。したがって、ビジネスのグローバル展開を通じて利益を上げ、その利益を研究開発(R&D)や設備投資に回すことで競争力を維持することが重要です。これにより、国内の生産性や雇用の維持にもつながります。

日本が国際的な競争力を維持し続けるためには、グローバルバリューチェーンの中で無視できないポジションを獲得することが不可欠です。そのためには、技術的優位性を維持するためのノウハウや完成品の設計、中核部品・原料、生産機械等のマザー工場としての生産機能やR&D機能を国内に残す必要があります。一方で、完成品の生産は需要地に近い場所で行うことが求められます。この戦略により、日本企業は国際市場での競争力を高め、国内経済の安定と成長を図ることが可能となります。国内における技術開発と生産能力の維持・強化を通じて、日本は引き続き世界の経済舞台で重要な役割を果たし続けるでしょう。

製造業は、日本の経済と社会において欠かせない柱です。各分野の特性を活かしつつ、技術革新とグローバル戦略を推進することで、持続可能な成長を実現することができます。
日本の中堅製造業は、これまでの成功モデルから脱却し、新たな経営戦略を模索する時期に来ています。グローバルな視点を持ち、国内外の市場での競争力を高めることで、持続可能な成長を実現していきましょう。日本の製造業が持続可能な成長を遂げるためには、デジタル化を前提とした物流の再構築が不可欠です。次回は本稿で再認識した製造業の「稼ぐ力」を最大限に発揮し、デジタル技術を活用した物流の革新により、さらなる発展と国際競争力の強化を図るデジタル戦略について考察します。お楽しみに!

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