2025年、流通・小売業界の物流は経営戦略の要となっています。 EC拡大やオムニチャネル化、そして深刻化する人手不足などを背景に、「物流を制する者がビジネスを制する」と言っても過言ではありません。物流担当のリーダーや意思決定層に向け、本記事では自社物流への切り替えと物流業務改善のポイントを解説します。物流を内製化する意義や直面する課題、そして現場で使える改善策をまとめました。さらに、流通業向けWMS(倉庫管理システム)の導入メリットや、実際に自社物流化を成功させた企業事例もご紹介します。ぜひ今後の物流戦略立案の参考にしてください。
2025年5月30日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)
小売・流通企業にとって、物流は単なる裏方業務ではなく競争力の源泉です。ウォルマートCEOが物流専門家であることや、Amazon創業者がウォルマート物流を手本にした話は有名です。物流を最重視する企業ほど欠品削減や在庫適正化を実現し、収益力を高めています。
では、なぜ今自社物流(インハウス物流)が注目されるのでしょうか?背景には次のような業界環境変化があります。
EC普及により、消費者は24時間注文や即日配送、店舗受取など高度なサービスを当たり前に求めます。外部委託の画一的な物流ではこうしたニーズに迅速・柔軟に対応しづらく、自社で物流オペレーションをコントロールする必要性が高まっています。実際あるEC企業では、外部委託物流がボトルネックとなり、ギフト梱包やチラシ同梱などのサービス対応に見積・稟議を経て時間がかかるなどスピード面で限界を感じたといいます。委託先ではキャンペーン用のセット商品の出荷なども柔軟に対応できず、顧客サービス向上の障害となっていました。
オムニチャネル戦略の推進実店舗とECをシームレスにつなぐオムニチャネルは業界共通の課題です。店舗在庫をEC販売に活用したり、オンライン注文品を店舗受取・返品できる仕組みづくりには、在庫の一元管理やリアルタイムな在庫可視化が不可欠です。自社で物流システムを構築すれば、本部・倉庫・店舗を直結させてSKU(商品単位)在庫を一元管理でき、販売機会損失の防止につながります。特にアパレル大手のファーストリテイリング(ユニクロ)は全商品にRFIDタグを付与し、生産から店舗までどこに何があるか瞬時に把握・共有する体制を築いています。この結果、売場での欠品アラートや適正在庫維持が可能となり、値下げ販売に頼らず売上と利益率を向上させる狙いです。
物流効率が上がれば、欠品減・過剰在庫減による販売機会の最大化や、人件費・配送費の削減によるコスト低減が期待できます。逆に物流軽視はこれらメリットを逃し、販売機会損失や無駄なコスト増を招きかねません。実際、近年成功している小売チェーンは物流部門の人材育成にも力を入れ、社内にノウハウを蓄積しています。
2024年の働き方改革関連法(いわゆる「2024年問題」)でトラックドライバーの残業規制が始まり、配送網の制約や運賃高騰が避けられない状況です。今後、大手運送会社による集荷制限や値上げが進めば、物流コストは上昇しサービスレベルも低下しかねません。実際に「御社の荷物を取りに行けない」と運送会社に断られるケースも出始めており、物流を他社任せにするリスクが顕在化しています。また、人手不足で外部物流リソースの確保自体が難しくなる懸念もあります。このような環境下、自社で物流力を高めておくことはサプライチェーンを止めない保険とも言えるでしょう。
以上のように、顧客サービス強化からコスト管理、リスクヘッジまで物流内製化の意義は非常に大きいのです。では次に、2025年現在、流通小売業の物流現場で具体的にどんな課題があるのかを整理し、その改善ポイントを探ります。
まずは、現在流通・小売業界で共通する物流課題を洗い出しましょう。社内物流への切り替えや改善施策を検討するにあたり、自社の現状課題を把握することが出発点です。以下に主な課題を挙げます。
店舗とECで在庫管理やシステムが分断されている企業では、売れ筋商品の在庫が店頭になく機会損失、逆に店舗で売れない商品が過剰在庫化するといったミスマッチが起こりがちです。在庫情報がサイロ化していると、在庫融通や店舗受取サービスなどオムニチャネル施策もうまく機能しません。在庫の一元可視化とリアルタイム更新が課題解決の鍵です。
前項と関連しますが、サプライチェーン全体で在庫が見えないことは大きな問題です。特に商品点数(SKU)が多い業態では「どの商品が、いつ、いくつ生産済みで、どの倉庫・店舗にあるか」を正確に把握できていないケースがあります。在庫情報の不透明さは欠品や滞留在庫を招くだけでなく、需要予測や迅速な補充の妨げになります。情報システムを活用した在庫見える化が急務です。RFIDやWMS導入で「どこに何があるかを瞬時に把握できるようになった」という先進企業の例も出てきています。
倉庫作業員やドライバーの人手不足は長期的な課題です。求人難や高齢化で、今後物流現場の生産性向上は避けて通れません。加えて残業規制や働き方改革への対応で、限られた人員で効率よく回す仕組みが必要です。ピッキング・梱包の自動化機器や省人化システム導入、作業動線の改善、または業務の一部をアウトソーシングやシェアリング活用(後述)することも検討課題です。労務管理の面では、自社で物流スタッフを雇用する場合、労働時間の適正管理や安全管理体制の構築も欠かせません。
最後に配送面の課題です。宅配大手の値上げや容量オーバーによる断りへの対応、またEC増加で配送量自体が増える中、いかにコストを抑え安定配送するかが問われます。選択肢として、共同配送や地域シェアリング物流があります。実例では食品メーカー6社が共同で物流子会社を設立し、在庫集約と共同配送でトラック台数削減や配送件数16%減を達成しました。自社トラックを持たない企業でも、同業他社や物流企業と提携して幹線輸送をシェアする動きが広がっています。また都心近接の小型倉庫拠点を構える戦略も重要です。Amazonが都市部に小規模配送拠点を多数置き、プライム会員向け即配サービスを実現しているのは有名です。自社でも、大型センター+都市マイクロFC(フルフィルメントセンター)を組み合わせて配送リードタイム短縮を図ることが考えられます。
以上の課題を踏まえ、次章では物流改善の具体策を見ていきます。自社物流への移行を成功させるポイントや、倉庫運営・在庫管理・デジタル化(DX)といった観点からの戦略を解説します。
前章で整理した6つの課題を解決するため、ここでは具体的な改善策を紹介します。物流改善は一朝一夕では成果が出ませんが、現場の小さな改善積み重ねが大きな効果を生みます。特に重要なのは、現状の数値化・見える化から始めることです。改善前後の効果を定量的に測定し、PDCAサイクルを回すことで継続的な向上が可能になります。以下、すぐに取り組める実践的なポイントを整理しました。
物流改善の基本は、現場(倉庫)の生産性向上と在庫の適正在庫化です。以下の点をチェックしてみましょう。
(箇条書きはH4タグ、または箇条書きのテキストを太く大きくして執筆をお願いします。)
※参考記事「“今すぐ実務に役立つ” 物流センター運営の教科書 ~センター内のレイアウト~」
※参考記事「“今すぐ実務に役立つ” 物流センター運営の教科書 ~荷主の評価と診断~」
人的作業が中心だった物流現場にも、近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。DX活用により「速く・安く・ミスなく」物流を回す取り組みは、もはや競争優位のカギです。
※参考記事「AGVとWMSの連携は必須?連携によるメリット・障害・改善事例を解説!」
倉庫内改善と並行して、配送ネットワークの見直しも行いましょう。
以上、物流改善の観点から倉庫内業務、デジタル技術、配送ネットワークまで広く見てきました。続いては、実際に自社物流化に踏み切った企業の事例を取り上げ、成功のポイントを探ります。
あるEC専業の小売企業A社(中古ゴルフ用品通販)は、顧客密着サービスが強みでした。しかし外部委託の物流ではきめ細かなサービス提供に限界を感じ、自社物流への切り替えを断行しました。
A社では創業当初自社倉庫で物流を行っていましたが、事業拡大に伴い6年前に大手物流会社へ完全委託していました。しかし近年、ギフト梱包や販促物同梱、セット商品キャンペーンなど多様化する顧客要望に対し、外部委託オペレーションではスピーディな対応が困難になりました。例えばギフト包装一つとっても、委託先から見積取得→社内決裁→作業指示というプロセスで時間とコストがかかり、フットワーク軽く施策を打てない状況だったのです。またAmazonが当たり前に提供する365日出荷対応などを見据えると、従来のアウトソース体制では追随が難しいとの経営判断に至りました。
こうして自社物流に舵を切ったA社は、広島の自社物流センターを開設。同時にWMS「INTER-STOCK」を新規導入して、物流業務の立ち上げを行いました。WMS選定にあたっては「地元ベンダーであること」と「柔軟なカスタマイズ性」が決め手となったと言います。実際導入後、「データベースが完全公開されていて自由に自社システムと連携できる点」「ユーザーに寄り添った柔軟な対応」で安心してシステム運用できていると高く評価しています。担当者は「これほど柔軟に対応してくれる会社は初めて」と述べており、標準機能自体は他社WMSと大差なくとも柔軟性の高さが大きな価値だったと振り返ります。
効果:A社は自社物流再開から約1年で、委託時と同等レベルの物流サービス品質を実現しました。立ち上げ当初は未経験アルバイト中心の体制でしたが、大きなトラブルもなくスムーズに稼働しています。さらに稼働8ヶ月後には関東にも物流センターを増設し、わずか3日間の現地設定と教育で稼働開始できたとのことです。WMSによる管理標準化のおかげで、新拠点立ち上げも短期間で行えた好例でしょう。
課題と展望:担当者によれば、自前物流への移行直後はコスト増になったものの、作業者の習熟と改善施策で十分吸収可能と見ています。むしろ急な入出荷にも臨機応変に対応できるメリットは大きく、顧客サービス向上という観点では内製化の価値を強調しています。今後の課題は作業スピード向上とコスト最適化ですが、それも時間の問題と捉えているようです。
同業者へのアドバイス:A社担当者は、物流を自社か委託か判断する際は「扱う商品の特性」で決めるべきと述べています。小さな商品であればAmazon FBAなど外部フルフィルメントが効率的だが、自社扱い商品が大きい場合やサイズ規格外の場合は自前物流が有利、と明言しています。さらに他社ブランド品のみ販売する小売業態(=自社製造品がない場合)も、自社物流にメリットが大きいとも語っています。その理由は、「自社で作っていない商品を仕入れ販売し、物流も委託してしまうと自分たちが商品に触れる機会がなくなる。商品を知らずして売ることはできない」というものです。まさに物流現場で商品に触れることで商品理解を深め、接客や販売に活かすというユニークな視点であり、物流内製化の隠れたメリットと言えます。
もう一つの例は、日本メーカーの商品を中国市場で販売する越境EC支援ビジネスを行うB社です。B社は創業4年で売上100億円規模に急成長しており、その原動力の一つが自社物流網とWMS活用によるスピーディなEC物流でした。
B社は日本各地のメーカーから商品を買取り、中国のECモール(JD.comや天猫など)や現地卸業者へ販売しています。海外進出を目指す国内メーカーにとって、現地物流・決済・言語対応など多くのハードルがありますが、B社はそれらをワンストップのソリューションとして提供しました。特に物流面では、日本国内に埼玉と大阪の自社物流センターを構え、商品の集約・検品・中国向けラベル貼付・出荷まで一貫管理しています。この物流基盤を短期間で立ち上げるため、B社もWMS「INTER-STOCK」を導入し、埼玉センター約1ヶ月・大阪センター約半月というスピード導入を実現しました。
WMS導入にあたっては、中国語対応の入荷ラベル発行機能や、同社の買取システムとのデータ連携といったカスタマイズを行い、自社業務にフィットさせています。ソースコードが開示され柔軟にカスタマイズできるセミスクラッチ型WMSだからこそ、短期間で独自要件を組み込めたと言えるでしょう。
このような物流システムと自社倉庫の構築により、B社は国内メーカーからの買取→中国向け出荷という一連の越境EC物流を効率化しました。結果、人口減による国内需要減少というリスクを乗り越え、海外需要を取り込んで急成長を遂げています。越境ECは現地物流の難しさから二の足を踏む企業も多い分野ですが、B社のように物流力を内製化し強みに変えることで、新市場開拓のチャンスを掴んだ好例と言えます。
上述の事例にも登場した「INTER-STOCK(インターストック)」は、流通・小売業の自社物流化を力強く支援するWMSです。特徴は“セミスクラッチ型”と称される柔軟性の高さにあります。ここでは、物流DXの切り札となるインターストックWMSのメリットを整理します。
以上のように、インターストックWMSは「自社物流を強くしたい」という企業にとって心強いソリューションです。物流現場の実情を知り尽くした設計思想とユーザー本位の柔軟対応で、単なるシステム提供に留まらずパートナーとして物流改革を支えてくれるでしょう。
流通・小売業における物流の役割は、この数十年で大きく変化しました。大量仕入れ・安売り競争の時代を経て、今や顧客ニーズに合わせた迅速・柔軟な供給体制を築けるかどうかが、生き残りの鍵となっています。「第三次流通革命」とも言われる現在、DXを駆使して個々の消費者ニーズに応える物流のあり方が求められているのです。
その実現には、単に外部業者任せではなく自社の物流力を鍛えることが不可欠です。自社物流への切り替えは決して容易ではありませんが、社内にノウハウが蓄積され、顧客価値を高める武器となります。まずは現状の課題を見える化し、できるところから改善をスタートしましょう。幸い本記事でご紹介したような先行事例も増えてきていますので、参考にしつつ自社に合った戦略を描いてみてください。
物流改善は一朝一夕には成し遂がりませんが、一度軌道に乗れば強力な競争優位をもたらします。 2025年の最新ノウハウを参考に、自社物流改革への第一歩を踏み出してみませんか?必要であれば専門パートナーの力も借りながら、自社史上最高の物流体制を築き上げてください。物流を制する者が市場を制する――その言葉を体現するのは、次はあなたの会社かもしれません。