経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第十回|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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経営者のためのサプライチェーンマネジメントの基本と原則 第十回

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 画像素材: Graphs/PIXTA

<目次>

1.基本的なプロセスが機能していることが大前提

2.情報システムと5つの原則を連携させる

3.情報システム導入プロジェクトを成功に導く

4.プロジェクトを成功に導くリーダー像とは?

 


1.基本的なプロセスが機能していることが大前提

 

ここまでの回ではサプライチェーンマネジメントの5つの原則、「サプライチェーンと戦略の連携」、「一貫性のあるプロセスの設計」、「サプライチェーン組織の構築」、「コラボレーションモデルの構築」、「パフォーマンスの測定」について解説しました。

サプライチェーンの取り組みをテーマにした本は世の中に沢山溢れています。またその取り組みを支援するコンサルティング会社も多数
存在します。しかし、現実にはほとんどの企業がこうした変革に期待した効果を得られていません。その要因は大きく3つあります。

1つは、企業の基本戦略とサプライチェーン戦略を全く別物として扱うことにあります。本テーマで何度も申し上げた通り、サプライチェーンマネジメントの5つの原則は、自社の戦略を支えるものとして実行しなければ強みを得られません。

2つ目は、サプライチェーンの変革をその他の変革と同様に扱い、部分的な改善を進めてしまう点です。サプライチェーンの変革の取り組みでは、組織全体の幅広い機能が関連します。いかにして全社的な変化を取りまとめられるかどうかが重要なのです。

3つ目は、基本的なプロセスが正常に機能していないまま、サプライチェーンの変革に取り組んでしまうことです。サプライチェーンの変革については、基本的なオペレーションに問題がないことを前提とします。例えば、製品の品質保証が機能していなかったり、サプライヤーが納期の約束を守っていないなどの状況であれば、サプライチェーンの変革の前にまずはその問題を解決しなければなりません。

変革の優先事項を誤らないようにすることが大切です。

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2.情報システムと5つの原則を連携させる

 

優れたサプライチェーンマネジメントを支えるのは優れた情報システムです。サプライチェーンを構成する多くの関係者(社内の各部門、顧客、サプライヤーなど)との間で標準化されたデータをリアルタイムに共有することが求められます。

しかし、多くの企業ではこの情報システムが逆に足かせとなってしまって、サプライチェーンマネジメントのパフォーマンスを発揮できていません。それは、以下のような理由からです。

・社内の情報システム部門がシステム運用で手が回らない
・基幹システムに手を入れることが容易ではない
・開発パートナーであるベンダーとビジョンが共有できていない
・社外の関係企業とのデータ標準化、自動化が進まない

ある調査結果によると、情報システムを導入していても、5つの原則のようなプロセスや組織に関心を払っていない企業のパフォーマンスは、情報システムをまったく使用しない場合よりも劣るのだそうです。

またSCMのベストプラクティス企業は競合企業と比べて、使用しているアプリケーションの数がはるかに少ないというデータもあります。
競合企業が平均17種類のアプリケーションを利用しているのに対して、彼らの使用するシステムは10種類です。

つまり、サプライチェーン全体で使用するシステムの数を減らすことは、パフォーマンスの改善に役立つ可能性があると言えます。
使用するシステムの数を合理化して、管理の報告や統制の質を改善しているのです。

情報システムはあくまでもツールであり、オペレーションのプロセスについて人間の代わりに明晰な判断を下してくれるわけではありません。
様々なアプリケーションが利用しやすくなっていますが、情報システムをツールとして利用する際の基盤がなければ、システムのメリットを十分に活かすことはできないのです。


3.情報システム導入プロジェクトを成功に導く

 

新型コロナウイルスが蔓延する真っ只中、複数の設備投資案件が重なり、システム導入計画の変更を余儀なくされている企業も
少なくありません。あらゆる影響を考慮しながら、プロジェクトを進めていかなければなりません。弊社でも限られた選択肢の中で、
現場の方々の粘り強い厚い協力を頂きながらコミュニケーションを重ね、厳しい状況をクリアしながらリリースから約1か月ほどで
安定稼働に至る成功事例が最近もありましたので、そこで気づいたことについて少しご紹介させて頂きます。

– 要件定義で見えるもの、見えないもの –

システムを導入する際にはまずシステムの要件定義を行います。その段階で「見えるもの」「見えないもの」とがあります。

担当のシステムエンジニアがクライアント企業の要望を聞き取りしながら設計を起こしていきます。現時点で見えるものは顧客側の
要件として的確に掴むことが可能です。しかし、現時点で「見えないもの」というのは、顧客側では認識できません。

その見えない部分を補うのが我々開発ベンダーの役割だと思っています。過去の導入実績やノウハウから顧客の潜在的ニーズを引き出し
たり、リスク回避の策などを情報として提供します。

– ウォーターフォール型の限界 –

企業が変革にチャレンジをする時、未知なる領域に足を踏み入れる事になります。どの分野にも共通していると思いますが、当初の計画
通りに全てが進む事は皆無です。それは計画時点では、「見えないもの」が「まだ見えない」状態だからです。つまり計画を狂わせる
犯人は「不確定要素」の存在です。この不確定要素に対して関心を払っているかどうかがプロジェクト成功の成否を分けます。

変革を求める企業の特徴として、あらゆることが目まぐるしく変化しているということが言えます。時代背景や経済状況などの変化に
応じて、自社の提供価値を向上すべく、あらゆる手法で加速度的に実行してきます。その動きに古くから存在するウォーターフォール型
のシステム開発では限界が生じます。また、先ほど述べた「見えない不確定要素」の存在が邪魔をし、ウォーターフォール型のプロジェ
クトの前に高い壁となって立ちはだかります。


4.プロジェクトを成功に導くリーダー像とは?

 

最後に企業が大きな変革プロジェクトを成功させるために最も重要な要素を我々の私見としてお伝えして本テーマを締めたいと思います。
結局のところ、プロジェクトの成功の鍵を握るのは「人」です。では、どういった人がプロジェクト成功に必要なのでしょうか?
よく言われる一般的なところでは、

✔プロジェクトに数多く携わった経験豊富な人
✔システムに詳しい人
✔現場の運用に詳しい人
✔コミュニケーション能力の高い人

しかし、我々が考える「成功の鍵」を握る人物像はこれとは少し違います。

プロジェクトは沢山の関係者が存在し、かつ予測不能は出来事が頻発します。経験や知識があるに越したことはないですが、逆にそれがプロジェクト
の成功を阻む要因となることもあるのです。なぜならプロジェクトは生ものであり、経験や知識を超えた、不確実性の連続だからです。

そこで我々の経験から導き出されたプロジェクトを成功に導く人の共通点は、以下の様なものです。

✔ 常に冷静に状況を捉えている
✔ 問題や障害に対して、次の一手をいかに早く、どう打つかを考える
✔ コミュニケーションを取り士気を高め、チームや仲間を巻き込む
✔ 状況に合わせた細かいゴール設定を取る
✔ やるべきこと、やらないこと、保留を明確に示す
✔ 100点を狙わず、少しずつ100点に近づけていくスタンス

プロジェクトが大きくなればなるほど、あらゆる分野から協力を得なければなりません。その時に人と人のやり取りが生じます。同じものを見ても全く異なる解釈が生じたりします。よくある例え話ですが、コップに半分入っている水を見て、「半分も入っている」と思う人もいれば、「半分しか入っていない」と思う人もいます。むしろそれが当然であり、全く同じ解釈になると思う方が不自然です。

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あらゆる意見に真摯に耳を傾け、状況を冷静に俯瞰的に捉え、目標を定め実行していけるリーダーが不可欠です。またそうした
プロジェクト成功請負人は「絶対うまくいく」という信念と、何かあれば自分が責任を取るという「覚悟」という目に見えない武器を
持っています。人は確固たる信念と覚悟を併せ持った人に強く影響されます。スキルや経験も重要ではありますが、それに勝る要素と
してリーダーの「在り方」そのものが人を巻き込み、あらゆる試練を乗り越える糧になるのだと思います。いまを生きる経営者の方々、
変革を志すリーダーの方々にとって、本稿が良い教科書となれば幸いです。

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参考文献>
・ショシャナ・コーエン著「戦略的サプライチェーンマネジメント」英治出版
・マーチン・クリストファー著「ロジスティクス・マネジメント戦略」ピアソン・エデュケーション