「物流アセット戦略の基本」~拠点施策の考え方と物流不動産について|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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「物流アセット戦略の基本」~拠点施策の考え方と物流不動産について

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 画像素材:papa88/PIXTA

<目次>

1.集約か、分散か、物流拠点施策の考え方

2.賃貸か、所有か、物流不動産の考え方


1.集約か、分散か、物流拠点施策の考え方

 

物流拠点施策は物流コスト、物流サービスレベルへの影響度が最も高い戦略領域です。物流拠点と一言にいっても、
それが、地域なのか、場所なのか、施設なのか解釈が分かれます。本稿のテーマでは施設として扱います。
物資を流通させるために在庫を保管するDC(在庫型)の物流施設をイメージしてください。

少し古いデータですが、経済産業省が2004年に物流施策についてまとめた資料によりますと、物流拠点施策に
ついて以下のように書かれていました。

「物流拠点の確保、望ましい地点への立地推進及び物流機能の高度化等により、物流に係るサービスの向上、
コストの削減、環境負荷の低減及び災害被災地支援機能の強化等を図ること」

つまり、物流拠点戦略とは、「コスト」、「サービス」、「環境及び災害対策」の大きく3つの観点から考えてい
かなければならないということです。

拠点施策には大きくマザータイプ(集約型)リージョナルタイプ(分散型)の2つの考え方があります。
※拠点施策については、以下の記事でも触れているので合わせてご参考下さい。
「経営者が知っておきたい物流拠点戦略の実践的なノウハウ」

マザータイプは大型物流センターを設置して、在庫を一カ所に集約させることで、在庫を圧縮し、在庫管理コスト
を削減する方法です。一方、リージョナルタイプは小規模な物流センターを顧客企業の近隣や地方に配置すること
で、配送リードタイムを短縮し、配送コストを削減する方法です。

以下にそれぞれのタイプを項目別に比較してみましょう。

■在庫の量、在庫金額

在庫については、マザータイプの方が圧倒的に有利です。在庫を一カ所に集めることで余分な安全在庫を持つ必要
がないためです。例えば拠点が3つあると、3拠点それぞれで安全在庫を確保する必要があるので、どうしても積
み上げで在庫が増えてしまいます。

■在庫マネジメント

在庫マネジメントについても、マザータイプの方が有利です。拠点が多ければ当然在庫のマネジメント負荷は増大
します。拠点毎に在庫をマネジメントすれば非効率ですし、複数拠点の在庫を一元でマネジメントするのは難易度
が高くなります。

■キャッシュフロー

こちらは在庫金額とも共通しますが、在庫金額が増えればキャッシュフローは悪化し、在庫金額を削減できれば
キャッシュフローは良化します。

■物流マネジメント

こちらも在庫マネジメント同様、拠点数が少ないほどマネジメントは容易になります。拠点数が多ければ多いほど
マネジメントは複雑化します。

■運賃

マザータイプは輸配送距離が長くなるので、kg単価が高くなり、運賃値上がりリスクが高いです。リージョナル
タイプは輸配送距離を短くできるので、kg単価を抑えることが可能です。運賃高騰が続く近年では最も重要な比較
項目の一つです。

■トラック及びドライバー確保

全日本トラック協会が実施した労働力問題に関するアンケート調査結果によると、「長距離ドライバー」が不足と
する回答が60%前後を占めていました。とくに首都圏や中部圏、近畿圏などの都市部では不足感が強い傾向にあり
ました。今後も長距離ドライバーの確保は益々困難になっていくことを考えると、リージョナルタイプの方がトラ
ックやドライバーの確保が容易になることは間違いないでしょう。

■物流作業者の確保

リージョナルタイプは1拠点の物流サイズをスモール化出来る点でメリットがあります。昨今の物流労働人口の減少
により、物流作業者の確保は大きな課題です。マザータイプでは、多くの物流作業者を確保する必要がありますが、
リージョナルタイプでは少数作業者で運用が可能になります。

■納入リードタイム

物流のサービスレベルを測る重要な指標の一つとして納入リードタイムが挙げられます。
納入リードタイムについては、リージョナルタイプの方が圧倒的に有利です。輸配送距離が短いほど、遅延リスク
も低くなります。

■BCP対策

近年増え続けている自然災害による物流網分断で、小売店から商品が消えてしまうということが頻発しています。
国土交通省は物流事業者に対して、災害対応力の強化を強く求めています。こうしたBCPの観点による施策は今後
ますます重要度を増していくことでしょう。

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ここ数年は運賃値上げによって従来のコストバランスが大きく崩れてしまったことにより、在庫コストより
も配送コストやリードタイム短縮を優先する企業が増えており、リージョナルタイプへシフトしています。

物流拠点を分散化し、物流サイズをスモール化することでトータルコストを抑え、運賃値上げ時代でも利益
を確保する戦略が主流となっていくことでしょう。


2.賃貸か、所有か、物流不動産の考え方

 

Eコマース市場の拡大により物流不動産への注目度は高まっています。変化の激しい市場動向を予測し、流動的に
物流不動産を保有することも重要な戦略となっています。

■物流施設の賃貸市場の需要と供給

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(出典:JLL 2020年第二四半期東京ロジスティックマーケットサマリーより筆者作成)

物流不動産を自社で保有するのか、それとも賃貸で回していくのか。これも議論の分かれるところです。
自社倉庫と賃貸倉庫ではメリット・デメリット様々ありますので、一般的なものを以下にご紹介します。

■自社保有のメリットとデメリット

<メリット>
・長期で考えると賃貸より廉価
・賃料の値上がりリスクが無い
・契約期間の定めを設定する必要がない
・不動産担保として、銀行融資に有利
・将来の空きスペースを賃貸し、収益化を図ることが可能
・企業信用力の向上

<デメリット>
・買取にしても新築にしても多額のイニシャルコストが発生する
・イニシャルコストを銀行から借り入れした場合、長期返済が義務付けられる
・土地と建物に縛られるため、流動性が低くなる
・物量に応じたスケーラビリティが低い
・ROAが悪化する
・建物の維持費用が発生する
・建物のメンテナンスや管理が必要となる

■賃貸のメリットとデメリット

<メリット>
・イニシャルコストが発生しない
・P/Lと連動した管理が可能
・物量に応じて高いスケーラビリティを発揮
・経営環境に応じた柔軟性、流動性が高い
・メンテナンスコストや管理コストが不要
・ROAを高めることになる
・投資判断が困難な地方倉庫に向いている

<デメリット>
・長期利用すると自社所有よりトータルの支出は多くなる
・契約によって利用 基幹が制約される
・倉庫使用に関する自由度が低い
・将来的な値上げリスクがある

自社所有にするか賃借にするかの判断は、自社がどのポイントに重点を置くかによって変わります。自社の経営環境、
物流状況や規模だけでなく、将来的な展望も踏まえて十分に検討する必要があります。今後地方への拠点分散化が進
んでいくことを考えると、賃貸需要の方が伸びてくると予想されます。

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