誰でもできる!ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド ~前編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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誰でもできる!ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド ~前編~

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 画像素材:tadamichi/PIXTA(ピクスタ)

WMS(Warehouse Management System)の導入は、業務改革を行う大きなチャンスです。WMSは効率的な倉庫管理を可能にし、在庫の正確性や迅速な出荷など、多くの利点を提供します。ただし、システム導入だけでなく、既存の業務プロセスをいかに改革するかが導入の成否を分けます。WMS導入は大きな投資です。

しかし、魔法の箱ではありません。いくら優れたシステムであっても、大手のベンダーであっても、任せておけば上手くやってくれると思っていると痛い目にあいます。たしかにシステム化は叶うかもしれませんが、効果性は低いでしょう。ユーザーが自ら業務改革を行う意思を持って、WMSの導入に積極的に関与しましょう。そのための思考技術を今回はご紹介します。私がWMSの導入で経験したノウハウを体系化した独自フレームワークです。少しでも皆様の物流業務改革の助けになれば幸いです。

2024年3月10日 執筆:東 聖也(ひがし まさや)

<目次>

1.WMS導入は物流業務改革の最大のチャンス

2.答えは全てユーザーの中にある

3.物流業務改革のための4つのステップ

4.ステップ1:前提条件の整理


1.WMS導入は物流業務改革の最大のチャンス

 
現代のビジネス環境では、さまざまな問題や課題をIT技術で解決できるようになりました。物流においても、WMSを導入することで、入出荷精度が高まり、在庫見える化が実現できるなど、様々な課題を解決することができます。しかし、WMSに既存のプロセスを合わせるだけでは、物流業務の改革は行えません。現状行っている運用をカスタマイズでそのまま実装するのも違います。まずは業務改革案を作成しましょう。業務改革案を作成し、その後でWMSを導入するのです。多くの企業がシステム在りきで導入を進めています。一見上手く稼働したように見えますが、実は投資対効果は出せていません。業務改革を断行し、仕組みを変えることで、何倍もの効果を得ることができるのです。
システムは新しい仕組みを下支えするものでしかありません。WMSを導入すると業務を改革できると勘違いしている企業が多すぎます。結果として、それが過度な期待となり、WMSやベンダーへの不満となります。業務に精通しているのはユーザーです。ユーザーが主役となり、業務改革案を立案することが何よりも重要なのです。

 


2.答えは全てユーザーの中にある

「業務を改革しようとして、なかなか良い案が見つからず、思考が停止してしまう。」このような方が多いのではないでしょうか。そもそも「物流業務を改革する」といっても、何から手をつけて良いのかすら分かりません。今回はWMS導入にフォーカスしていますので、ある程度その範囲での業務改革のお話にはなりますが、それでも「業務改革」というのはそれ自体が思考停止ワードです。または、改革案を思いついても、それが正しいかどうかの確信が持てないという意見もよく聞きます。私たちがWMS導入プロジェクトを進める際によく聞かれることは、「どのような運用が正解か分からない」、「他社はどうやっているの」ということです。自社の業務プロセスに一番精通しているのは、ユーザーです。物流プロセスだけに限らず自社の製品や顧客のことも一番良く理解しているのがユーザーであり現場です。私たちの一貫した考えは、「答えは全てユーザーの中にある」ということ。
実は皆さんの中に答えがあるのです。しかし、その答えを導き出す術を知らないため、ベンダーやシステムに頼り、最後はまるっと放り投げてしまうのです。

前置きが随分と長くなりましたが、今回その答えを導き出す術を物流業務改革のための思考技術として、皆さまにお伝えしたいと思います。この方法は長年私たちがWMSの導入に携わってきて自分たちが直面した課題を解決するために導き出した独自のフレームワークです。ただし、私たちはコンサルティングをしたいわけではありません。あくまで、「ユーザーが主役」がコンセプトですので、出来る限りユーザー自ら実践しやすいようにシンプルに構成しています。

私もよく海外の学者が書いた思考プロセス系の本を読むのですが、あれをそのまま現場で皆さんが使っている姿が全くイメージつきません。その学者の方が傍でコンサルティグしてくれるのであれば別なのですが。


3.物流業務改革のための4つのステップ

私は現在、「ユーザーが主役のデータドリブン物流」をミッションに掲げ、WMSの導入を支援するパッケージベンダーの代表を務めています。これまで15年以上にわたり、数百社のWMS導入に営業、設計、開発、導入、サポート全ての工程に携わらせて頂きました。本稿では前編と後編の2部構成で、業務改革案作成のための思考術をご紹介します。
WMS導入の経験から培った物流業務改革を立案する方法を整理体系化した独自の思考メソッドです。とは言っても難しいものではなく、ユーザー自らステップに沿って進めれるように極力シンプルに構成しています。この思考メソッドはWMS導入時の要件定義フェーズで全ての企業で利用可能です。具体的には下図のようなステップになります。

0310 物流業務改革案作成ステップ

4.ステップ1:前提条件の整理

0310 ケーススタディ

急成長が続く中で恩座技研は物流コスト高騰と納品リードタイムに大きな課題を抱えていました。物流業務の改革を迫られる中でどのように実態を把握し、その状況に対応すればよいのか頭を抱えていました。業務改革案を立案する上で、まず重要なことは、直面する状況を的確に把握することです。以下は前提条件の整理で利用する武器となるワークシートです。実際に恩座技研で作成した前提条件を例にしています。※「前提条件のワークシート」ダウンロードはこちらをクリック

0310前提条件の整理

前提条件の整理を行う目的は、自社の状況を客観的に把握することで、WMS導入の目的と範囲、目標を明確にすること。そうすることで経営層、現場層、開発ベンダー全員がOneTeamとなって心を一つにすることが可能になります。自社を取り巻く状況については、気になる関心事を列挙し、事実となる根拠を踏まえて課題化を行います。多くの場合、私たちの元にWMS導入の相談がくる時点で、お客様は導入の目的をある程度明確にされています。しかし、WMSによるシステム化のスコープが定まっていなかったり、目標が定まっていなかったりします。改めて、プロジェクトチーム全員で整理し直すことが重要です。続いて、ビジョン、目標、最後にプロジェクト名称を設定します。
0310ビジョン

自社の物流の在るべき姿をビジョンとして明確にします。プロジェクトチーム全員が明確にイメージできる具体性のあるビジョンを作成しましょう。目標については、WMSの導入によって期待される導入効果を設定します。こちらもできるだけ具体的に明記しましょう。恩座技研の目標は少々欲張り過ぎですかね(苦笑)。またしっかりとSDGsの観点で環境への配慮が盛り込まれている点もポイントですね。

最後にプロジェクト名称を決めます。「そんなの必要なの?」と言われる方もいますが、私はネーミングはそのプロジェクトに命を吹き込む為にとても大切なものだと考えています。
プロジェクトは生き物です。皆さんにも名前があるように生き物には皆名前があります。ネーミングはプロジェクトの象徴です。特にこれといってルールはありませんが、一度聞いたら忘れない印象に残るネーミングが良いと思います。またそのネーミングでプロジェクトの意味がなんとなく伝わるようであれば良いネーミングと言えるのではないでしょうか。

ワークシートを活用する狙いは、前提条件の整理の思考法をステップ・バイ・ステップで実践できること、プロセスの情報の可視化を行うことです。WMS導入に対して、関心事とそれに関連する事実を見える形にして体系化し、取り組み課題を設定することが可能になります。一見するとこのようなシートに書き込むことを面倒と思うかもしれません。しかし、必要な項目に必要な状況を書き込んで可視化することで、その後の意思決定の精度と速度が飛躍的にアップします。昔、私が物流システムのコンサルティングを行う際はこのフレームワークをよく使っていました。最初は懐疑的だったお客様もその効果に驚かれていました。是非皆さんも騙されたと思って実践してみてください。
※「前提条件のワークシート」ダウンロードはこちらをクリック

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