誰でもできる!ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド ~後編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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誰でもできる!ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド ~後編~

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 画像素材:tadamichi/PIXTA(ピクスタ)

前提条件の整理をしないままに要件定義に入ると、議論の範囲や対象が不明確なので、当然ながら人によって捉え方が異なり、議論が脱線してしまったり、設計・製造フェーズで要件の取りこぼしが見つかりプロジェクトが手戻りしてしまったりといったことになってしまいます。どのようなプロジェクトにおいても、複数の人が集まって何かを検討する際には、事実を軽視した経験や先入観による思い込みがウイルスのように蔓延し、プロジェクトを混乱に陥れます。

知識や経験は大変貴重なものですが、それが規律なく行き来するようになると逆効果になります。どんなに高性能な自動車も、整備された道路や信号がなければ、たちまち大渋滞や大事故を巻き起こします。人の知識もそれと同じで、多くの人が関わると、それぞれの知識が暴走を始め、大渋滞や大事故を起こしてしまいます。そこで、思考プロセスのフレームワークが役に立ちます。フレームワークに沿ってステップバイステップで情報を順序立てて整理していくことで、知識や経験を十分に活用することができます。今回は「ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド」の後編として、問題の特定から課題・目標設定までの思考メソッドを一緒に学びましょう。

2024年3月17日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

<目次>

1.前編のおさらい

2.ステップ2~3:問題の整理と課題の設定

3.ステップ4:目標の設定

4.優先順位の設定


1.前編のおさらい

「誰でもできる!ユーザーが主役の物流業務改革の思考メソッド ~前編~」で説明をした物流業務改革のプロセスは大きく4つのステップから構成されていました(下図)。前編では、「Step1:前提条件の整理」のフレームワークを活用して、混とんとしている状況下で、何が起こっているのかを整理するとともに、WMS導入の目的や対象の範囲を明確にする方法を解説しました。WMSを導入する際の要件定義フェーズにおいて、この一連のステップをすべて一つひとつ忠実に踏んで、物流業務改革を実行します。「前提条件の整理」の段階で、WMS導入の目的・目標の基準をプロジェクトチーム全員で丹念に検討してみることは、大変意味のある作業となります。これによって、WMSでサポートする対象範囲が特定の範囲に偏ってしまっていないかを検討することもできますし、問題を解決するために、どこにチームの力を集中すべきかを、示してくれます。
0310 物流業務改革案作成ステップ
後編ではそこから更に踏み込んで、Step1で整理された前提条件に対して、何が問題かを明確にします。そこから問題を分析することで行動課題を設定し、優先順位をつけて目標(KPI)を設定します。直面する状況をどう効率的に把握し、物流業務改革案を作成するかという際に、このフレームワークが役に立ちます。
それでは早速、前編同様に以下のケーススタディを取り上げ、「Step2:問題の整理」以降の具体的なアプローチについて見ていきましょう。
0310 ケーススタディ

 


2.ステップ2~3:問題の整理と課題の設定

WMSを導入する際、要件定義フェーズの成功がプロジェクトの成否に大きく関わると言っても過言ではありません。重要なポイントは、”機能視点のデザイン”ではなく、”問題解決視点のデザイン”で進めることです。「問題」とは、現状と目標とのギャップです。”問題”と”課題”とはよく混同されがちですが、実は似て非なるものです。”課題”とは”問題”を解決するためになすべきことです。システム化とは、”問題”が恒常的に発生しないように仕組みを構築することです。
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前編において、恩座技研の目標は以下に設定されました。ここでは、「リアルタイムな在庫管理」をターゲットにして、問題の整理を実際に行っていきます。

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恩座技研では、ERPの在庫管理機能を現場用にカスタマイズして、製品倉庫の現場で利用していました。そのため、ERP上のシステム在庫と現場の在庫には常に2~3時間のタイムラグが常態化しており、様々な問題が発生していました。正確な在庫情報がないため、顧客への対応が後手になってしまったり、生産計画や調達計画にも支障をきたしていました。そこで「業務改革ワークシート」を用いて、目標と現状のギャップを確認しながら、問題をまとめて整理すると以下のようになりました。
※「物流業務改革のワークシート」ダウンロードはこちらをクリック
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まず「理想・目標」に対して「現状」をシートに書き込みます。続いて理想と現実のギャップを問題として定義して、書き込みます。上記の例ではERPに製品の入出荷実績が即時反映されていないことが主な原因として具体的に書き込まれています。そしてこの問題に対して課題設定を行います。課題とはその問題を解決するために「やるべきこと・やると決めたこと」です。つまりタスクですね。上記の例で解説すると、「入荷検品後、ERPへの伝票の登録が2~3時間かかっている」とうのは、問題であり課題ではありません。なぜなら、これだけだと何をすべきかが明確でないからです。この問題を解決するために、やるべきことが課題となります。この問題と課題をしっかり区別する思考プロセスが大変重要なので、しっかりと頭に叩き込んでおいてください。

会議で問題だけを列挙して結局何も決まらずに、同じ問題に対する議論が次の会議でも繰り広げられるということがよく起こります。これも問題と課題を区別して議論できていないためです。


3.ステップ4:目標の設定

さて、課題設定まで終わったら最後に具体的な対策と目標(KPI)を書き込みます。対策とは課題に対して具体的にどのような対策をとるかということです。ここでは仕組みやシステムに求める機能など具体的に書き込みます。それと同時にKPIもできるだけ数値などを用いて具体的にしましょう。さて、ここまで読まれた勘の良い読者の皆さんはもうお気づきかと思いますが、ここで整理された対策がWMSに求められる機能要件となります。そしてKPIがWMS導入による期待値となるわけです。
これが“機能視点”ではなく、”問題視点”によるシステムデザインです。


4.優先順位の設定

目標に対して、問題を列挙し、課題と対策までを明確化できました。このように、本ワークシートを用いることで、「前提条件の整理」で設定した目標に対して、何をすべきかが具体化されました。最後に改善の優先度を決めていきます。優先度については、まず目標に対する影響度を「高・中・低」の3段階で評価します。
続いて改善の難易度を「難・普・易」の3段階で評価します。目標に対する影響度と改善の難易度を元に優先度を設定しましょう。このような方法もシンプルな方法ですが、意思決定プロセスを見える化することが可能になります。なぜそれを優先させるのかといった意思決定の基準が明確であり、チーム全体でブレません。

以上が物流業務改革案を検討する際に利用できる思考メソッドです。一度、思考プロセスを身につければ、活用場面は次々と広がっていきます。そのためには、一連のプロセスを理解するだけではなく、実際の業務や日常の場面で、繰り返し使ってみることが大事です。

 

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