成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~物流を科学する前編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~物流を科学する前編~

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 画像素材:tadamichi/PIXTA(ピクスタ)

現在の日本の国内市場は「ゼロサム市場」と言われています。ゼロサム市場とは、ある企業が市場シェアを拡大すると、他の企業のシェアがその分だけ縮小するという構造を指します。このような市場環境では、企業間の競争が一層激化し、他社との差別化やコスト競争力の強化が不可欠となります。ゼロサム市場では、企業が成長するためには他社のシェアを奪うしかないため、競争は熾烈を極めます。このような状況下で企業がさらに成長を遂げるためには、効率的かつ効果的なオペレーション・マネジメントが一つの鍵となります。

オペレーション・マネジメントは、企業の資源を最適化し、無駄を排除し、コスト削減を実現するための方法論です。市場での成功を収めるためには、製品やサービスの品質を維持しながら、他社にはない独自の価値を提供することが求められます。そのためには、製造プロセスやサプライチェーンの最適化、従業員の能力開発、技術革新など、あらゆる面での改善が必要です。オペレーション・マネジメントは、これらの課題に対処するための効果的なツールとして機能します。モノづくりの現場のみならず、コンビニエンスストアのバックヤードや、サービス業や金融機関の店舗など、仕事の形態や内容は違っても、この方法論は有効です。欧米の大学では積極的にこの学問を学ぶのですが、残念ながら日本では、その定義すらあいまいで、専門家も書籍も少ないのが現状です。名前からしても、地味で古臭いイメージがあるためでしょうか。マーケティングやリーダーシップ論の方が日本では人気のようです。

本稿では、「物流を科学する前編」として、ゼロサム市場における物流デジタル戦略とオペレーション・マネジメントの重要性を論じるとともに、経営トップによる物流デジタル戦略立案のポイントについて考察します。

 

2024年5月19日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

〜在庫を捉える視点がオーダーサイクルタイム(OCT)短縮化のカギ〜 (3)

<目次>

1.オペレーションの基本的なアプローチ

2.オペレーション・マネジメントとは?

3.敷居はそんなに高くない!?

4.オペレーションの変革が産業を革新する

5.「物流のあるべき姿」を明確に描き切れるか


1.オペレーションの基本的なアプローチ

いきなりですが、皆さんに質問です。チームの生産性を高めるために、あなたならどちらのアプローチを選択しますか?
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この問題に正しく答えるためには、オペレーションの基本的な考え方として、以下の3つの視点が重要になります。

1.チームで一番歩くのが遅い人が、山頂への到着時間を決める
2.一番歩くのが遅い人は常に同じではなく、時間とともに変化する
3.人は助け合うことができる

企業経営におけるオペレーションにおいては、これと同じ問題を扱うことになります。特定の部署や人材だけが優れていてもダメなのです。そして、人が歩く速度を個別に高めようとすることを「部分最適」といい、チームで一番遅い人をみんなで協力して高めるようにすることを「全体最適」といいます。オペレーションの問題解決は、どのようにして”部分最適の罠”に陥らずに、「全体最適」で取り組めるかにかかっています。

2.オペレーション・マネジメントとは?

オペレーション・マネジメントとは、製造業における中核業務として、設計・生産・製品開発・購買などの業務を総合的なシステムと捉え、それらをどのように連動させ、オペレーションすればよいかを科学する学問です。一言でいえば、「会社の業務を科学する」と言えるでしょう。企業の物流戦略において、競争力は結局、内部のオペレーションがどれだけスマートに構築されているかにかかっています。ここで言う「スマート」とは、顧客に愛され、自社にとっても無理や無駄がないことを指します。どちらか一方にとって都合が良すぎるものは、スマートとは言えません。そのスマートな物流をデジタルでデザインする上で、オペレーション・マネジメントの方法論は非常に有意義です。物流業務を科学するオペレーション・マネジメントは、「物流デジタル改革」のための必須技術と言っても過言ではありません。

オペレーション・マネジメントは、戦略を実現するための「価値」をどのように生み出すかを体系的に立案するのにも役立ちます。市場や需要の構造とマッチするオペレーション構築は物流デジタル戦略で生み出す価値として十分過ぎるでしょう。現状の業務フローを入り口にして、そこからどう変革するかという視点こそがこの学問の鍵です。既存の物流業務フローを記述し、ただそれを眺めているだけでは、そこから新たな価値を生み出すことは難しいでしょう。

既存の業務フローを描いた上で、それをどう変更すれば今の市場状況や需要の状況にうまくマッチさせることができるか。そのためにはどこをどう改善すれば良いのかを考える上で、オペレーション・マネジメントは非常に役立ちます。こう聞くと、このオペレーション・マネジメントがめちゃくちゃ使えそうな手法に思えてきませんか。今すぐにでも使いたくなってきますよね。私もこの学問を最初に知ったときは、すぐにでもクライアントで試したくなり、その衝動を止めるのに苦労しました。


3.敷居はそんなに高くない!?

オペレーション・マネジメントは、学問の視点から見ると、在庫理論、生産スケジューリング、プロジェクトマネジメント、オペレーションズ・リサーチ(OR)など、広範な領域を包括します。これらの分野の知識と技術を駆使することで、企業は物流活動を効率化し、コスト削減や顧客満足度向上を実現することができます。弊社が独自開発しているLFAパッケージ「輸快通快」は、OR技術を活用して物流における「組み合わせ問題の解決」に挑戦しています。

製造業の業務視点から見ると、3M(Man:人、Machine:機械、Material:原料)を組み合わせて市場や顧客の要求に合わせて計画、段取り、実行を行う機能になります。例えば、お客様から「我が社のために一品ものを作ってほしい」と頼まれたとします。その場合、新たな生産ラインを増設するのではなく、お客様の要求に合わせてカスタマイズの仕様を決め、それに基づいて職人やエンジニアの専門家たちがそれぞれの技を発揮し、世界に二つとない品を作り上げるでしょう。これが受注生産方式です。その対極にあるのが量産方式です。量産方式では、単一品目を効率的に生産することが可能な方法です。
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ものづくりの現場における、顧客ニーズに合わせた生産方式の検討は、まさにオペレーション・マネジメントの基本概念と合致するものです。「会社を科学する学問」という冒頭の言葉は、皆さんを緊張させてしまったかもしれません。しかし、オペレーション・マネジメントは、ものづくりの現場で日々行われている活動を体系的に理解し、改善していくための実践的かつ親和性の高い学問なのです。

 


4.オペレーションの変革が産業を革新する

歴史を振り返ると、オペレーションの変革が産業を革新し、企業の盛衰を決定し、市場のパワーバランスを塗り替えてきました。かつて、大量生産方式の登場は、画期的なコスト削減と生産性向上を実現し、多くの企業に繁栄をもたらしました。しかし、時代とともに変化する顧客ニーズや市場環境に対応するためには、より柔軟な生産方式が求められるようになりました。そこで生まれたのが、フレキシブル生産方式(FMS)です。これは、従来の大量生産方式の効率性を継承しつつ、多品種少量生産にも対応できる柔軟性を備えた方式です。自動車産業における代表的な例が、ゼネラルモーターズ(GM)の毎年のモデルチェンジです。顧客の嗜好やニーズの変化を捉え、常に新しいモデルを市場に投入することで、GMは長年にわたって市場を席巻してきました。このように、お客様の市場や需要の状況に応じて最適な生産方式を選択することが、企業の競争力を左右します。

オペレーションの選択は、単なるコスト削減や効率化にとどまらず、顧客満足度の向上や新たな市場機会の創出にもつながる重要な経営戦略です。この考え方はそのまま物流デジタル化戦略にも応用できます。オペレーションの変革がものづくり産業を革新し、企業の盛衰を決定し、市場のパワーバランスを塗り替えてきたように、物流においても、デジタル化によって物流を変革し、新たな競争優位性を生み出す可能性を秘めているのです。


5.「物流のあるべき姿」を明確に描き切れるか

ものづくりに携わる者にとって、お客様のハートを捉える製品を生み出すことは第一の使命です。しかし、単に一品で良いのか、多様なラインナップを展開すべきなのか、変化する需要にどのように対応していくのか、といったオペレーションの課題に直面します。これらの課題を解決し、需要に合致した製品を効率的に生み出すためには、オペレーション・マネジメントの概念を理解し、具体的な仕組みへと落とし込むことが重要です。しかし、多くの企業では、「物流のあるべき姿」を明確に描けていないという課題があります。現場レベルでの改善活動は得意であっても、より大きな視点で物流全体のデジタル化をどのように進めていくべきか、具体的なビジョンを描ききれていないケースが多いのです。

そこで、後編では、VCAPモデルと呼ばれるフレームワークを用いて、「物流のあるべき姿」を描き、具体的な改革プランを立案する方法について解説します。オペレーション・マネジメントの真髄とは、顧客ニーズを常に意識し、変化に柔軟に対応しながら、効率的な物流システムを構築することです。VCAPモデルはこの真髄を実現するためのフレームワークの一つです。ぜひ、後編もご期待ください。
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